Z12 キューブ試乗記
(2009年1月23日記)



2008年11月、3代目となる新型キューブ(Z12型)が発売されました。

1998年2月に初代のZ10型キューブが、「走って楽しい、使って便利、僕らの新・遊び道具・・・・・コンパクトでハイトなワゴン」のキャッチフレーズで登場しましましたが、確かに使い勝手は良かったものの遊び道具としてのコンセプトを明確に打ち出せてはいないように感じました。そして、2代目となる先代のキューブ(Z11型)は2002年10月に発売され、コンパクトワゴンの形態は継続しているものの、そのデザインは初代キューブの面影すら残さないほど新しいものとなります。コンセプトカーをそのまま市販車にしたかのような思い切ったデザインは、「NEW CUBIC DESIGN」の創造、「いちばんいいシカク」を創ることを目指し、一見違和感を覚えつつも個性的で印象に残るものでした。

左右非対称のリアデザイン、それまでは個人的にクルマはシンメトリー(左右対称)であるべきと思っていましたが、コンセプトをカタチに繁栄させたこと、遊び心、デザインを優先させクルマにスピード感を必要としないこのクルマに関しては、左右非対称のデザインも有りかな?と思った事を今でも明確に覚えています。

そして2008年11月26日、フルモデルチェンジた3代目となる新型キューブ(Z12型)が登場しますが、誰もが見て解るとおり新型キューブ(Z12型)は、2代目キューブ(Z11型)からのキープコンセプトとなっています。「いちばんいいシカク」は更に丸みをおび、「サングラスをかけたブルドックのイメージ」?というキュートな顔つきにはなったものの、誰が見ても一目で「キューブ」だと分かるデザインとなっています。まぁ~最初から「サングラスをかけたブルドック」をイメージしてデザインしたとは思えませんが、広告に関するリサーチの段階でこの様な意見が出たのでしょうね。でも、「サングラスをかけたブルドック」と言われると「サングラスをかけたブルドック」にしか見えなくなってくるからうまく言ったものです。

新型キューブ(Z12型)は、先代モデルからのキープコンセプトではあるのですが、これまで国内のみの販売だったのに対し、今回のモデルからは北米や欧州など世界でも販売されるグローバルモデルとなったことが大きな特徴だと思います。この「四角いかたち」は世界でどのように映るのでしょうか。

さて、今回試乗させていただいたのは、新型キューブ(Z12型)の中でも今一番売れている「15X Vセレクション」です。2WDの15Xに、インテリジェントキー、プッシュエンジンスターター、インテリジェントエアコンシステムなどの装備を組み合わせたもので、上級モデルである15Gの美味しいところをチョイスしてパッケージングしたモデルとなっています。また、15X Vセレクションではオプション設定であるスタイリッシュガラスサンルーフ付きのものでした。

■個性を更に強調したエクステリアデザイン

先にも書きましたが、新型キューブ(Z12型)のエクステリアは先代のキューブ同様に四角くてコンパクトなデザインとなっています。先代のキューブも四角く角の取れたとてもユニークな形でしたが、新型では更に丸味が強調され、親しみやすいキュートなデザインも加わり、キューブ独特の個性を確立してきたと言っても良いでしょう。まさに、誰が見ても「キューブ」だと分かるデザインで、ここまで確立されたデザインのクルマは今の国産車に珍しいのではないでしょうか。

また、全体のデザインはもとより、「キューブらしさ」の象徴となっていた左右非対称のリアデザインも、新型キューブ(Z12型)に継続されています。

■デザインへの拘り

この「キューブ」で採用されている左右非対称のリアデザイン・・・、これが大きなポイントで、今まで国内専用モデルであったためにこのデザインは可能でした。しかし、新型キューブ(Z12型)は世界で発売されるグローバルカーとなることから、今までになかった左ハンドルが必要となり、従って左右非対称のリアデザインは右ハンドル用と左ハンドル用の2種類が必要となります。通常であれば左右対称のデザインに変更するのが一般的なのですが、キューブの特徴ともなっている左右非対称のデザインを残すためにあえて2種類のボディパーツを用意したそうです。また、リアハッチが横開きであるため、もちろん開く方向も変わってきます。共通仕様、共通パーツで如何にコストダウンを図るかという昨今の流れの中において、この左右非対称のデザインを維持するためだけにわざわざコストを掛けて創りあげている辺り、新型キューブ(Z12型)が如何にデザインに拘ったものであるかと言うことが伺えるのです。

■シックなカラーバリエーション

試乗させていただいた新型キューブ(Z12型)のカラーは、新色のクラフトダンボールと言うカラーで、その名の通り身近な素材であるダンボールをモチーフにしているものでした。先代モデルではアイリッシュクリームと言うベージュ色がありましたが、それよりも濃いベージュ色でクルマでは今まで見たことがないとても珍しいカラーです。キューブの四角い形とダンボールのイメージが見事にマッチしていると感じました。

新型キューブ(Z12型)では、このクラフトダンボールなど日産新色の3色を加えた、全10色のボディカラーがラインナップされていますが、マーチなどがカラフルなカラーバリエーションであるのに対し、どちらかというとシックなカラーバリエーションとなっているようです。この事は先代からもそうであり、ユーザー層の違いで住み分けられているのでしょうが、もう少しカラフルなバリエーションがあっても良いように思えます。

■ユニークなインテリアは2トーンがお勧め

先代からのキープコンセプトである新型キューブ(Z12型)において、一番進化したのはインテリアデザインではないでしょうか。「開放感のあるジャグジー」をイメージした室内空間は、ラウンドした曲面で構成されたインストルメントパネルが特徴的で、ユニークさと共に前方からの圧迫感が少なく、空間を更に広く感じさせるものとなっています。

試乗車の内装は「フェザーグレー」で、ダッシュボード、インストルメントパネル、グローブボックス周辺などが2トーンのものでした。この他、内装色には同じく2トーンの「ラウンジブラウン」、単色となる「グラファイト」の3種類が用意されていますが、2トーンのものをセレクトすると、新型キューブ(Z12型)のユニークなインテリアデザインが更に強調されます。好みもあるでしょうが、是非2トーンの内装のものをセレクトし、その内装のユニークさを実感していただきたいと思います。

メーターパネルはグラフィカルで、楽しさを表現したデザインになっています。また、車内の各所に「波紋」をイメージしたディテールが取り入れられ、大きなところでは天井部分、細かなところではスピーカーやカップホルダー内部など、細かなところまでデザイン性を盛り込んだものとなっています。

コンパクトカーの収納性や生活に密着したアイテムは常にアイデア満載で、この新型キューブ(Z12型)でも多く取り入れられています。小さな紙袋を引っかけるフックやiPodを直接繋げることができるUSBポート、ティッシュBOXを丸ごと収納できる肘掛けなどは理にかなった装備といえます。また、大型のドアオープナーは付け爪をした女性にも配慮されたもので、何気ない気配りが伺えます。

■「不思議感」を是非一度ご体感ください

ユニークなインテリアデザインに感心しつつ車内に乗り込むと、今まで乗用車で味わったことのない不思議な光景を目の当たりにします。四角いクルマだということで室内も四角い空間であると言うことは想像できるのですが、乗ったときの視界、特にAピラーの角度が垂直に立っている様に見え、またドライバーズシートからフロントガラスまでの距離が離れているため、フロントウィンドウ全体、更には両サイドのウィンドウ中間までが見渡せるのです。この「不思議感」は、実際に乗ってみて初めて感じることであり、是非一度ご自身で体感してみてください。

そして、フロントウィンドウが立っている分フロントガラスの上下サイズは小さくなっているのですが、それよりも横幅の広さが強調されていることから、実際にドライブする時には上方向の視認性が良いよりも左右の視認性がよい方が実用的であることは間違いなく、実際にドライブすると右折時の視認性は抜群でした。

フロントウィンドウの上下サイズが小さいために開放感が無いように思われがちですが、実際には十分な開放感もあります。また、フロントウィンドウが立っていることからルーフが前方まで伸びており、スタイリッシュガラスサンルーフ装着車であればドライバーズシートからサンルーフの中間までもが視界に入り、「不思議感」は更にアップします。

実際に乗ったことはないのですが、フィアットのムルティプラに乗ると「こんな視界かな?」と想像します。

ドライバーズシートからの視認性でもう一つ感じたことがありました。外観からのイメージで、ドライバーズシートからはボンネットが見えすぎるほど見えるのではないか?と思っていましたが、予想外にドライバーズシートからはボンネットが前下がりに見え、殆ど視界に干渉しないものでした。更にボンネットとダッシュボードが同一の面で構成されており、ダッシュボード自体も視界に干渉しません。

■前席にも恩恵をもたらすスタイリッシュガラスサンルーフ

15Gでは標準装備、15X Vセレクションにオプション設定されているスタイリッシュガラスサンルーフは、前席からもサンルーフが視界にはいるほどサンルーフの位置が前方寄りにレイアウトされていることで、これまで後席のためにあるようなサンルーフが多かった中、前席にもサンルーフの穏健が得られるものとなりました。ただ、その分残念ではあるのですが後席での開放感は少なくなったようにも思えます。

また、障子のイメージをシェードに取り入れた「SHOJIシェード」の光は、日本人が日常的に係わってきた障子の光そのままであり、日本人には親しみのある光ではないでしょうか。初めてクルマに障子のマテリアルを採用したにも係わらず、全く違和感がありませんでした。


■デザイン性豊かなインテリア・・・しかし、気になるところも

エクステリア、インテリア共にデザイン性豊かな新型キューブ(Z12型)ですが、インテリアで少々気になるところもありました。柔らかさを感じるステアリングとグラフィカルなイメージのメーターパネル、その間にレイアウトされたウインカーレバー、ワイパーレバーのデザインが先代のものと共通である事に加え、コラムシフトの枝の部分がスチールのパイプむき出しとなっています。このコラムシフトのデザイン及び質感が、細部にまで拘った新型キューブ(Z12型)のインテリアデザインの中では少々違和感を感じてしまうことが残念でした。

■柔らかさ、厚みを感じる「ソファーシート」

新型キューブ(Z12型)も、先代から受け継がれた「ソファーシート」が採用されました。一昔前のベンチシートをリビングのソファーのように進化させたものなのですが、先代のキューブのソファーシートは自分の部屋でテレビを見たり本を読んだりする、気軽で使い勝手の良いソファーという感覚でした。しかし、新型キューブ(Z12型)の「ソファーシート」は更に「ソファー感」を向上させ、柔らかく厚みのあるものとなっています。先代キューブより、クッションパッドの厚みを最大で40mm増やすなどの変更を行っているそうですが、実際に座ってみるとその「ソファー感」を体感することができました。大型で心地よい柔らかさが身体にフィットし、ドライビング時においても太股をシッカリサポートしてくれます。

また、新型キューブ(Z12型)の「ソファーシート」は、センター部分が少し盛り上がり小物入れが配置されているため、ベンチシート形状でありながら左右が独立した要素を取り入れています。しかし、実用的にはベンチシート特有の利便性、寄り添い感は損なわれていません。

但し、左右独立したようなデザインになっているとは言うものの、カーブでのホールド感は少ないのも事実で、大きなカーブでは身体が少々不安定になる事もあります。

■とてつもなく大きな居住空間

新型キューブ(Z12型)のエクステリアデザインは、廻りに比較対象物がない場所、特に写真などで正面から見た場合、まるで軽自動車のように見える事があります。5ナンバー枠を目一杯使った四角いデザインのためなのですが、軽自動車は元々サイズ的に規制があり、その規制サイズの中でできるだけ大きな居住空間を得るため必然的に四角いデザインになってしまいます。そのテクニックを5ナンバー枠の自家用車に取り入れたキューブには、とてつもなく大きな室内空間ができあがってしまうということなのです。実際、どの座席をとって見ても非常に広く、特に横幅の広さは5ナンバー枠とは思えないほどの余裕を感じさせます。コンパクトでありながら5人乗っても十分な実用性があるのです。

後部座席の広さもこの上なく、3人が安全に乗れるよう3つのヘッドレストに3つの三点式シートベルトが備わっていました。しかし、よりソファー感を感じるには2人掛けでの使用がベストでしょう。

また、新型キューブ(Z12型)は、その四角いボディラインのためドアの開口部が大きいことで乗り降りがしやすく、体を大きく曲げなくても簡単に乗り込める、一種のユニバーサルデザイン的な要素も伺えます。

新型キューブ(Z12型)をドライブ中、交差点で止まったときなどのアイドリングの静かさにも驚かされます。振動も殆ど伝わってこないことから、停車中は広くて静か、ゆったりとした空間を感じられました。ただ、動き出すと流石にエンジン音は高くなり、切り立ったフロントウィンドウのためでしょう高速走行時にはAピラー付近から風切り音も聞こえてきます。

■コラムシフトと軽いステアリング・・・操作性

シフトレバーはコラム式で、従来通りの扱い慣れた操作方法なのですが、シフトレンジ全体の構成が確認しづらい面もあります。現在のポジションはメーター中央に配置されたディスプレイで確認できますが、「P→N→D」その後に「L」レンジがあるというシフト全体のレイアウト情報がもう少し確認しやすければ良いなと思いました。

ステアリングは車速に応じて重さが変わるシステムなのですが、動き出し(低速)のステアリングの軽さには驚かされます。走行時には幾分手応えが出てくるのですが、いささか全体的に軽すぎる様にも思えます。ただ、女性には扱いやすいかも知れませんね。

■高揚感を高めるアイテムも!

試乗させていただいた15X Vセレクションには、インテリジェントキー、プッシュエンジンスターターが搭載されていました。このインテリジェントキーは、キーIDに対応した電動ステアリングロック、エンジンイモビライザーなどにより、車両盗難防止を格段に向上させています。また、エンジン始動時にはメーターの針がフルスケール表示され、その後定位置に戻るという一昔前では一部の高級車にしか採用されていなかったギミックまで採用されています。プッシュエンジンスターターとの組合せでドライバーに対し、高揚感を高めるアイテムではないでしょうか。

さらに、試乗車にはCD一体AM/FMラジオが搭載されていましたが、ナビゲーションシステムもなく、普通の大型ディスプレイ付きオーディオだと思っていました。しかし、シフトレンジをバックに合わせたところ何とこのオーディオのディスプレイがバックビューモニターになっていたのです。意外な装備に少々驚かされました。

■CVTを組み合わせた低燃費仕様パワーユニット

新型キューブ(Z12型)は全車、低燃費、小型軽量、前方吸気、後方排気の1.5リッターオールアルミガソリンエンジン「HR15DE」が採用されています。ティーダやノートにも採用され走りにも定評のあるパワーユニットで、CVTを組み合わせた低燃費仕様となっています。

エンジン始動時、セルモーターの音がとても心地よく、スムーズさを感じさせます。動き始めてアクセルを踏んだときの加速感はとてもマイルドで、燃費を重視した設定のためか、アクセルワークに対しキビキビとした反応はありません。それがある意味、滑らかさえ感じさせられます。また、高速への進入時、本線への進入加速に対しエンジンが少々「頑張ってる!」感はありますが、これもまた実用範囲内でしょう。

■日産には珍しい柔らかな足まわり
今回の試乗は、名古屋市内の一般道を中心に行いました。高速道路のように全体が整備された道路では無く、舗装の修復後などの凸凹も多く、生活に密着したシチュエーションでの試乗ができたと思います。そこで感じたことは、昨今の日産にしては珍しく柔らかな足まわりであることでした。柔らかく厚みの増えたシートが身体への衝撃を緩和している事もあるのでしょうが、ハンドリングもソフトで、乗り心地を重視したセッティングになっているようです。クルマ自体の性格が、しゃかりきになって走るクルマではないため、方向的には間違っていないと思いますが、たまには使うであろう高速道路ではもう少し足まわりの堅いものを要求されるかも知れません。
■一つのコンセプトが、ぶれることなく完結

新型キューブ(Z12型)を形容するとき、誰もが「四角いクルマ」であると答えるでしょう。その個性的な「四角いクルマ」は、角のとんがった四角ではなく、角に丸みをおびた「柔らかそうな四角」であり、とても親しみやすいユニークな形でもあります。新型キューブ(Z12型)の外観からイメージする柔らかさ、優しさは、インテリアや運動性能にも共通のイメージがあり、角の取れた外観のイメージと共に運動性にも角が取れたイメージが伺え、トータル的に全く違和感のない仕上がりになっています。一つのコンセプトが、ぶれることなく完結したものだと感じました。

先代キューブでは、ワイルド感を出したようなオプション設定もあり、マーチが女性的なクルマであるのに対し、キューブはどちらかというと男性的なイメージがありました。しかし、新型キューブ(Z12型)では、やや男性的ではあるものの女性が乗ってもマッチする柔らかさと優しさを持ち合わせています。

また、新型キューブ(Z12型)は自然の光をうまく室内に取り込む演出がされているのも特徴で、障子をイメージしたとされる柔らかな光、ルーフにアレンジされた波形模様が柔らかな陰影となって車内空間を演出する自然の影・・・。若者向けのクルマの場合、人工のイルミネーションを車内に多用した光の演出も多いのですが、それらは主に夜間においてその効果を発揮するものであり、その人工的な光の演出に対し新型キューブ(Z12型)は昼間においての光の演出をメインに考えられていることから、若者だけを意識したものではなく、買い物や通学、通勤など日常的に使うより多くの人たちに配慮したものであるようです。老若男女、幅広いユーザー層に新型キューブ(Z12型)の個性を感じていただけることでしょう。

■ファッションカラー賞を受賞

新型キューブ(Z12型)は「オートカラーアウォード2009」において、「ダンボールというモチーフを使ったユニークな着眼点で、新しいキューブの世界観を表現している」、「コンセプトにあった色の開発が行われていることが伝わる」などの高い評価を受け、ファッションカラー賞を受賞しました。(外装色:クラフトダンボール、内装色:ラウンジブラウン)

また、自動車メーカーのデザイナーが自社以外のカラーデザインを互選するオートカラーデザイナーズセレクションの「インテリア部門賞」も併せて受賞しています。