E51 エルグランド試乗記
(2004年5月20日記)

初代エルグランドは、それまでに無い車格と操作性でミニバンのカテゴリーを一つ増したのでなないかと思うほど画期的なもので、今までにない大きなサイズでありながら乗用車に近い操作性を目指し、結果としてサイズを気にせず運転できるほどに仕上がっていました。輸入車のミニバンでは既に同サイズ以上のものも多く存在しますが、このエルグランドの登場で、それまで躊躇していた国内の他メーカーからも大きなサイズのミニバンが登場する切っ掛けとなったことは間違いないでしょう。ただ、これだけのサイズになると、どのメーカーもこぞって出せるものではなく、エルグランドが発売されてから7年が経つ現在でもライバル車は少ないと思います。前回試乗させて頂きましたプレサージュクラス(一般にミニバンと呼ばれているもの)であれば、日本の主要メーカー全てがしのぎを削る激戦区であるのに対し、エルグランドが位置するこのクラス(上級1BOX)はTV-CFでも使われているように、色々な意味でワンランク上の”ファーストクラス”と言えます。

1997年に登場したエルグランドは2002年にフルモデルチェンジし、2代目エルグランドへとバトンタッチしました。そのスタイルは初代エルグランドに勝るボリューム感と存在感があり、特にフロントマスクの重厚感は他に類を見ないインパクトあるデザインでした。そこまで他を威圧するデザインにしなくても・・・と思いますが、チョット離れた位置からクルマ全体のバランスで考えると、このくらいの方が他車との差別化が明確になり良いのかな?などと思えます。でも後ろからこのエルグランドが走ってきたら、思わず道を譲りたくなりますよね。

■知っていますか?
今回試乗したエルグランドには、エアロパーツが組まれていました。ただでさえ存在感のあるエルグランドですから、エアロパーツを組むとより一層のボリューム感があります。実は写真にあるこのエアロパーツは、エルグランドのオプションカタログには載っていない社外パーツで、三河日産自動車ではこの他6メーカーのエアロパーツを新車購入時に取り付けて販売するシステムを取り入れているそうです。また、お客様から依頼のあったパーツを取り付けて納車する事も可能のようですので、後から取り付けするよりも、信頼できるお店で初めから付けて頂いた方が安心できますし、支払いに関しても一本化できてよけいな面倒が無くなるかもしれません。購入時には一度聞いてみては如何でしょう。
■人が自ら乗り込む空間
この大きなエルグランドのドアを開け運転席に乗り込む際、シートポジションの高さが気になります。この事はある程度想像していましたが、最近のクルマとしてはオフロード車を除きチョット珍しいかも知れません。リアのキャビンへ乗り込む際にも同じ高さまで”登る”事となりますが、当然の事ながら乗り降りをサポートするステップなどは付いていますので、どちらかというと”敷居の高さ”的な意味合いを感じます。「家に上がる」「座敷に上がる」など、日常のフラットな空間から意識的に別空間へ入り込む・・・、クルマが人を迎え入れるだけでなく、人が自らクルマに乗り込む。魅力ある空間であるからこそ許されるものかもしれません。日産にはLV(ライフケアビークル)と言う、クルマへの乗降をサポートする機能を持たせたシリーズがあり、もちろんエルグランドにも設定されています。

■デザインされた静かで快適な空間
ドライバーズシートに座ると即座に空間の豊かさを実感しますが、意外なことに乗る前まで感じていたクルマの大きさが余り感じられなくなります。トラックのような「大きなクルマを取りまわす」と言う感覚はありません。むしろ外観から受けるイメージとのギャップで、逆に運転しやすく感じるかも知れません。また、運転席周りのデザインはシャープなラインを強調したもので、非常に洗練されていると思います。ただ、メーター自体がオーソドックスなアナログメーターなのが残念で、この手のクルマの場合、タコメーターを気にしながら加速することや、油圧計を気にしながら運転することなどほとんどありませんので、スピード、エンジン回転数、水温、燃料など必要なときに必要な情報が得られれば良いわけで、周辺のデザインにあわせたデジタルな表示であっても良かったように思えます。

もう一つ、運転席と助手席のシートを少し後ろに下げてしまうと、運転席とセカンドシートの間に位置するピラー(Bピラー)が、ドライバーや助手席に座る人のほぼ真横辺りに来てしまいます。ドライバーは主に前を向いて運転しているため運転中は気になりませんが、助手席に座る人にはチョット邪魔に思えるかも知れません。まぁシートを少し前に出せば解消されますが・・・。実はこのBピラーがやや前の方に位置している所に注目!、この事でセカンドシートに座る人にとってとても快適な視野が確保されていて、キャビンの快適空間の重要なファクターの一つとなっているようです。この窓はフリップアウト(窓の後ろ側が少しだけ外に開く方式)を採用していますので、乗用車のように窓は開きません。確かに要望も多く、開けばいいなと思うこともたまにあります。しかし、大型のオートエアコンが標準装備され空間自体が快適であれば、窓を開ける機会などほとんど無いように思えますし、フリップアウトウインドウはガラス面とボディー面が沿った滑らかな面で仕上げることが出来ますので、高速での風切り音が軽減されています。窓が開くという一時的な爽快さより、長時間にわたる静かで快適な空間を重視した結果なのです。

■扱いやすさは、馬力よりもトルク!
イグニッションを回すと、V型6気筒の滑らかなエンジン音が静かに聞こえてきます。さすがにこれだけの車格となると静粛性は抜群ですが、一旦車外に出るとエンジン音とファンの回る音は結構大きめでした。ただ、初代エルグランドにあったディーゼルエンジンに比べれば静かなものかも知れません。今回のエルグランドには3500ccのガソリンエンジンのみが設定され、そのディーゼルエンジンは設定されていません。車両重量も約2t、総重量は約2.5tという重量級の車重ですので、それを快適に走らせるためにはそれなりのパワーが必要だったのでしょう。実際3500ccのVQエンジンは、その巨体をグイグイと引っ張るように動かせます。ミニバン以上の大きさになると、馬力よりもトルク重視のエンジンの方が扱いやすく、静かに加速する様は新幹線の加速を思い起こさせます。そして、スピードに乗った後の乗り心地は何とも素晴らしいもので、一度体感するとクセになるかも知れません。このクルマでキビキビ走ろうと思って購入する人はいないと思いますが、運転していると自然にハンドルさばきやアクセルワークが大らかになっているようです。初代エルグランドではどんなスピードでハンドルを切っても転倒しない足回りを目指し、結果として乗用車に匹敵する操縦性を得たそうですが、2代目エルグランドも同じようにどんなスピードでハンドルを切っても転倒しないかどうか、残念ながらそれを試す勇気が私にはありませんでした。
■少しの試乗じゃ錯覚するかも?
試乗が始まってしばらく運転していると、交差点などで何となくふらつく感覚がありました。大きなカーブなどではこの感覚はなく、ハンドルを多めに切る場合に感じることに気づきました。ハンドルを切る割合に対し、フロントが意外に早く切れ込み、なりそれを戻す行為がクルマをふらつかせる結果になっているのではないかと・・・・。または、自分自身が大きなクルマを運転していると言う感覚が、無意識にハンドルを切りすぎている・・・・。などと考えながら運転していましたが、運転に慣れた頃にはこの現象も治まりましたので、実際に購入された後であれば何の問題もないと思います。もしかすると、わずかな時間の試乗においては「チョットふらふらする」と言う錯覚を与えるかも知れません。また、この巨体をバックで駐車したり、縦列駐車するのが驚くほど容易であったことを考えると、そこに何か独自の工夫がされているのかもしれませんね。
エルグランドの車重を軽々走らせるエンジン。そしてその巨体を無理なく止める強力なブレーキがエルグランドには備わっていました。重いクルマって「走り出したら止まらない」・・・こんなイメージがあると思います。ところが今回の試乗でエンジンのパワーと同時に、ブレーキの良さが印象的でした。安心して止まれるクルマは、安心して走れます。走る、曲がる、止まる。このクルマの持つ基本性能の高さが伺えます。
■今更言うまでもありませんが・・・
室内空間に目を移してみますと、今更ながらその広さには感心させられます。セカンドシート、サードシート共にゆったりとした大きめのシートが採用されているにもかかわらず、ラゲッジスペースを確保しても余裕の足下空間が存在します。シートアレンジでは、どのシートも前後に大きくスライドすることと、マルチセンターシートがユニークなアレンジを可能としています。3列目への乗降にしても、従来のセカンドシートを前に倒す方法だけでなく、センター部をウォークスルーにしておけば、どのシートも倒さずに乗り降りが出来ます。実際に使ってみると、この方法が一番使い勝手が良いようです。現行エルグランドには、助手席側リモコンスライドドアに加え、運転席側リモコンスライドドアを選択することが出来ます。要するに、左右両方のスライドドアがリモコンで開閉できるもので、運転席からの操作はもちろんリモコンキーでの操作も可能となっています。小さな子供が自分で乗ろうとしたときに、ドアオープンの手助けが出来て非常に便利ですし、ドライバーの意に反したドアの開閉を防ぐ手助けにもなりそうです。サードシート部の窓もセカンドシート部と同じくフリップアウト方式の開閉構造を採用していますが、サードシート部に限ってはなんと!電動で、運転席からも開閉できる様になっています。これは意外に便利だなと感じました。ラグジュアリーなクルマだからこそ、この様な小技を効かせたアイテムがたくさん欲しいですね。
■乗ると分かる「安心感」
2日間の試乗を終え、一番感じたことは「安心感」でした。それは決して、サイドエアバックがどうのとか、追突軽減ブレーキがどうのとか言う技術的なものではなく、人が感じ取ることが出来るソフトな面での事です。大勢で移動するクルマだからこそ、ドライバーとしてはみんなが安全で楽しく快適にと願い、乗っている人全てに安心感が伝わるかどうか気になるところです。もちろんドライバーの運転技術にも左右されますが、前記しましたように大方の人が大らかな運転になるように思えますし、何と言っても人が感じる安心感はエルグランドの大きさ、そして高さにありました。昨今のミニバンでは安定性や操縦性、そして乗降性を考慮して低床プラットフォームをうたうものも多くなってきていますが、世の中に走っているクルマの高さって低いものが多いのです。どういう事かというと、衝突する位置も割合的に低い位置が多く、スポーツカーのような走行性能を要求されない上級1BOXに対し、わざわざ衝突の割合の多い低い位置に体を持っていく必要は無いと思います。同乗者にとってエルグランドの「高さ」が如何に安心感を与えているか、乗ってみると分かるはずです。万が一乗用車が突っ込んできたとしても、衝突の場所は足下だな・・・と。いくらドライバーが安全運転を心がけていても、無くならない事故です。この安心感は、決してどのクルマにもあるものではありません。
■エルグランドのライバルとは
このエルグランドのライバル車は何なんだろうと気になりました。私は日産関係者ではありませんので実車名を挙げて書きますが、このファーストクラスに位置するライバル車・・・、国産車ではトヨタのアルファード辺りかな?と。他に見あたりませんが、それでもアルファードよりは快適空間が確保されていると思いますし、パワーも勝っています。クルマのサイズ的に同じ又は、それ以上の車種も出てきていますが、上級1BOXまで達しているものは無いように思えます。そう考えると、このクルマと比較する車種はほとんど無く、本当にこのクラスのクルマを選ぶユーザーが試乗した場合、他の車種と乗り比べているのではなく、このクルマを「確認」するために試乗しているのだと感じました。また、ここまでのサイズは必要ないと思っている人でも、一度乗ってみると「色々な意味での”ファーストクラス”」を実感するこは間違いないでしょう。
■最後に
今回で6台目のレポートとなりました。全て読んで頂いた方にはもう気が付かれているかと思いますが、私のレポートの書き方はそのクルマの良いところを出来るだけたくさんレポートしたいという気持ちで書いています。ダメだしのように悪いところばかりを取り上げたほうがおもしろおかしく読めるのでしょうが、本当に車が好きなら良いところを沢山見つけたいですよね。