C11 ティーダ試乗記
(2005年3月25日記)

日産が昨年から今年に掛けて発売した6車種の新型車の中で、「ムラーノ」に続いて2台目に発売したのが今回試乗させて頂いた「ティーダ」です。「ティーダ」は昨年9月に発売され、月の販売台数では1位、2位を争うほど好調な売れ行きを維持している人気車種となっています。
SHIFT_ compact quality・・・コンパクトの質をシフトする。「今までのコンパクトカーにない高いクオリティを持つ新型車」をコンセプトに登場した「ティーダ」。前回の試乗記でも書いたように、コンパクトカーだけで一つのラインナップができそうな日産コンパクトカー郡の中でどの様な位置づけを目指しているのか、今回の試乗でそれが感じられればと思います。
昨年9月の「ティーダ」発表当時、日産車のブランディングを確認させられるような「顔」を持ってはいるものの、全体のフォルムはまるでルノー車の様なクルマだなというのが「ティーダ」を見た正直な感想でした。日産とルノーの関係で、デザインを気にしない様に心掛けようと思えば思うほど、気になってしまう・・・そしてできあがったデザインのように感じます。

■「晴れ」から「太陽」へ
今回試乗した「ティーダ」は長年親しまれてきた「サニー」の後継車にあたるものです。「サニー」と言えば、トヨタの「カローラ」、ニッサンの「サニー」と、誰もが知っているほど有名な車種なのですが、日産の顔とも言えるこの車名を捨ててまでこのクルマに拘ったもの、「時代の潮流」を意味する「ティーダ」。車名の由来からも心機一転、これからの日産の顔となることでしょう。しかし、この「ティーダ」という車名にはもう一つ、沖縄の言葉で「太陽」を意味していますので、何処かに「サニー」の名前を残しているのかも知れませんね。仕事で沖縄に行くことも多く、実はこの「ティーダ」という言葉は、このクルマがでる前から知っていました。「サニー」の後継車の名前が「ティーダ」だと聞いたときに、「なるほどな!」と思ったことを覚えています。
■落ち着いたエクステリア
先にも書きましたが、全体的なイメージはどことなくルノー車に近い印象を受けます。もちろん私の先入観なのかも知れませんが、それは決して悪いことではなく、むしろオシャレで好感が持てます。まぁこれもまた「ヨーロッパ車=オシャレ」という私の先入観なのかも知れませんね。
クルマ全体には厚みがあり、重厚感のある落ち着いたエクステリアなのですが、どことなくコンパクトスポーツを予感させる部分も持っています。ボンネットからグリルに流れるライン、ライトの形状、リアコンビネーションランプの形状がとても特徴的で、特にライト周りから盛り上がったボンネットのラインには独特のものがあります。ライトよりボンネットが盛り上がった形状のもが他にないわけではないのですが、この「ティーダ」ほどハッキリとしたプレスラインを持ち、強調したものは珍しいでしょう。
フロントのしっかりとしたプレスラインに比べて、リア周りのエクステリアは丸みがあるのですが、重厚なイメージは変わらず、全体のバランスはうまくまとまっていると思います。細かいところでは、フロントグリルのメッキ部分がアクセントを出し、凄く良い使い方をしていると思います。

■一目瞭然!特徴的なインテリア
「ティーダ」の一番の特徴と言えば、やはりインテリアでしょう。車内に乗り込む前、車外から窓越しに内装を見ただけでも、明らかに周囲のコンパクトカーとは作りが違うことが分かるのです。メーター周りやステアリングに使われているアルミ素材の光が、窓越しからも確認できるからでしょう。駐車場などで隣に列んだときなどは、一目瞭然となることと思います。そして乗った瞬間、その感覚は間違いのないものとなることでしょう。逆に、「ティーダはコンパクトカーなのか?」と言う疑問にぶつかるのも事実です。よく「ひとクラス上の」と言う言葉を聞きますが、この「ティーダ」はそのレベルを超えて、まるで高級車に乗ったかのような感覚さえあります。ダッシュボードのデザインはセダンのティアナに近いですし、メーターのディテールも高級車のフーガに近いものがあります。

■全てが大きい?
シートは、大きくユッタリ感があるにもかかわらずホールド性はしっかりしています。そして目の前にあるダッシュボードも厚みがあり、メーター類も存在感があります。これらをはじめ、ドアやセンターのアームレスト、ドアポケット、リアシートのアームレストなど、あらゆるものが大きく、コンパクトカーのサイズとは思えないほどです。また、ダッシュボードのデザインには高級感がありますし、メーター類は運転者への情報表示だけでなく、凹凸をつけた立体的なディテール、そして走りへの気持ちをも高めるものとなっています。各所に配置されたアームレストは、驚くほど柔らかい手触りで、これもまた今までのコンパクトカーには無かったものでしょう。

■スペースを無駄なく利用
コンパクトカーには、あらゆる空間を利用した収納スペースが考えられているのですが、この「ティーダ」はそのサイズが大きいのもうれしいですね。「そこに収納スペースがある」と言うだけでなく、「使えるスペース」が存在すると言う、実用性の高いものとなっています。もともとクルマ自体が小さいわけではないのですが、それでも大きなシートや大きな収納スペースを確保するためには、いろいろなアイデアが盛りもまれているのです。「ティーダ」のシート調整レバーはクルマのセンター側に配置されているのですが、この事により余分な隙間を作らず、限られた空間をより広く活用されているようです。
■コンパクトカーには珍しい
「ティーダ」のリアシートは、コンパクトカーでは珍しく前後にスライドします。この事により、ウイングロードなみのラゲッジスペースと、シーマを超えるニールームとの使い分けが可能となるようでが、実際に乗ってみるとまさに余裕の空間を感じることができます。また、リアシートのアームレストも非常に大きく、両側の席からユッタリ利用できる、これもまた高級セダン並みのサイズになっているのではないでしょうか。

■落ち着いた味付けの走り
オールアルミの新型エンジンは、今では多くの日産車で採用されていますが、「ティーダ」の場合、アクセルの反応も良く外観の重厚なイメージとは裏腹にクルマが軽く感じられる部分と、大型セダンの持つ落ち着いた動きをする部分が使い分けられているようです。最近のクルマのアクセルは全て電子制御で、どの段階で、どれくらい踏めば、どのくらいのパワーを出すか、ということを全てプログラムされています。この「ティーダ」のフィーリングは、出だしこそ軽快ですが、後はマッタリ感というか、エクステリア、インテリアと同じく落ち着いた味付けがされているようです。また、エンジン音も静かでパワーも十分でした。
ただ、インテリアが高級車に近く、2500ccや3500ccのクルマに乗っているような感覚に陥るときがあり、そんなときには少し自分の感覚と実際のパワーにギャップを感じたりもします。最近では、1800ccエンジンを搭載した「18G」が発売されましたが、このクルマには1800cc位の排気量でも十分バランスがいいでしょう。

■足回り&ハンドリング
日産車の足回りは全体的に少し堅めに感じるのですが、この「ティーダ」も例外ではありません。そのおかげで、高速走行でのハンドリングは極めて気持ちが良く安定感もあります。そして、ロードノイズも少なくとても静かです。一般道では足回りの堅さが気になるかなと思っていたのですが、大きなシートがうまく衝撃を吸収しているようで、一般道でも快適でした。また、ハンドリングが素晴らしい上に、シートにはホールド性があることで、余計にコーナリングが安定しているように感じます。困ったことに私自身、このような足回りやハンドリングの良さを体感するたびに、新しいクルマが欲しくなるんです。
■チョットビックリ
リアハッチバックの開閉が驚くほど軽いのには驚かされました。サイズ的にも小さいのは確かなのですが、それにしても意外なほど軽く開け閉めすることができます。展示車や試乗車で一度お試しあれ!
■ティーダは男性的?
多くのコンパクトカーは、視界の広さや車両感覚を掴みやすくするためにダッシュボードを低く抑える傾向にありますが、この「ティーダ」に関しては逆にダッシュボードを高くし、視覚からうけるイメージまでも大型のセダンを思わせる様な演出がしてあります。あらゆるものを今までのコンパクトカーから逸脱させた「ティーダ」。もちろん、日産のコンパクトカー郡、と言う中で見れば、一つのレパートリーという意味で非常におもしろい存在なのですが、女性や初心者が運転した場合に少し扱いにくい傾向にある様にも感じますし、質感からはとても男性的なクルマであると感じました。ターゲットの年齢層が少し高めなのかも知れません。
■不思議な感覚に陥るクルマ
今までの文章でお分かりかも知れませんが、「ティーダ」を運転していると、大型のセダンを運転しているような、とても不思議な感覚に陥るのです。クルマ自体はそれほど小さなクルマではないのは分かっていますが、それ以上のサイズ感があるのも事実です。感覚と実際のサイズから生まれるギャップ、実におもしろいクルマですね。これは、長く乗れば乗るほど感じてくることではないでしょうか。
■高いクオリティからの高級感
コンパクトカーに「高いクオリティ」を与えようと考えた場合、頭の中でいかに上質にしようかと考えただけでは、この「ティーダ」のようにここまで一貫したもを作るのは難しいでしょう。実際に高いクオリティを持つと思えるクルマに乗ってみて、そこで感じたものは何かということを一つ一つピックアップし、コンパクトカーの中で再現していったのだろうと思います。想像ですが、開発の段階で「高いクオリティを持つと思えるクルマ」が高級セダンだった為か、とても高級セダンに近い雰囲気、高級感を出していますね。また、高級感というものは利用者が感じることであって、そこに高価な材料や手の込んだ仕掛けがしてあっても、それを感じることができなければ無意味(無駄)となってしまうのですが、この「ティーダ」は「乗り心地」「見た目」「視界」「さわり心地」「音」など、人の感覚に訴える全てが一貫しており、基本的な性能は明らかに高い位置に存在しています。「今までのコンパクトカーにない高いクオリティを持つ」と言うコンセプト通りに、日産のコンパクト郡の中で高級車の位置づけとなるでしょう。
■好調な売れ行き
「ティーダ」の価格設定は、1500ccの他車から比べると少し高めなのですが、冒頭でも書きましたように月の販売台数では1位、2位を争うほど好調な売れ行きとなっています。これは、価格に対して購入者がその価格以上の価値をこのクルマに感じているということなのでしょう。
今回の試乗を通じ、「モノ」を見極め、「質」に拘る40歳代以降の方には大いに支持されるだろうと感じました。同じサイズの2BOXカーがあまり売れていない現在、少し価格が上でも高いクオリティを感じる「ティーダ」が売れていると言うことを考えれば、この「ティーダ」は「コンパクトカーになかったもの」を創りだしたのにとどまらず、車社会の中のにおいても一石を投じた結果になったのかも知れません。日産の新しい「顔」、今後が楽しみです。
■ニューヨークモーターショー'05
2005年ニューヨーク国際オートショー に、この「ティーダ」をベースとした3ドアハッチバックスポーツモデル「スポーツコンセプト」が出展されました。日産が昔から得意だった、コンパクトスポーツモデルを思い出させるものです。もし発売されるとなると、超人気、注目の1台となること間違い無しですね。

C11 ティーダ試乗記