C25 セレナ試乗記
(2005年6月25日記)

今回の試乗記は、5月31日に発売された「セレナ」です。「セレナ」と言えば、昔から聞き慣れた車名ではあるのですが、1991年に「バネット・セレナ」として初代が発売されてから、もう14年も経っていいるんですね。ところがこの「セレナ」、この14年間に1回しかフルモデルチェンジされておらず、初代セレナは1回のマイナーチェンジを経て8年間も同じ形でした。ただ、初代の中でも記憶に残っているのが、マイナーチェンジで登場した「ハイウェイスター」。「エルグランド」「ラルゴ」にも設定があったこの仕様は、若い人を中心に人気がありました。今で言う「Rider」のようなものでしょうか、専用のカラーリングも新鮮だったように思えます。当時はまだ今のようにミニバンブームではありませんでしたので、今から思えばこの「ハイウェイスター」が、若者をミニバンに引きつけた火付け役だったのかも知れませんね。
 そして今回、3代目となる新型セレナが発売されたのですが、2代目から3代目へも6年という歳月を要しています。少し長めのスパンではあるのですが、昨今のミニバンブームに合わせ、ライバルを意識しつつ、万を期して登場させた日産の自信作であるのには間違いないでしょう。雑誌では、他のミニバンと比較されている記事をよく目にしますが、その中でも私が個人的に興味を引かれたのは、お世辞抜きで「セレナ」でした。とは言っても、「セレナ」が飛び抜けてよく見えたと言うよりも、他のクルマへの不満が多かった・・・のも事実です。

■その第一印象は・・・
 そうこうしているうちに試乗記のお話があり、早速試乗させて頂くこととなりました。実車を目の当たりにすると、さすがに大きいなぁと感じます。常々、「クルマはデザイン重視」と思っているのですが、5ナンバー枠を目一杯使った大きさに、特徴的なフロントマスクやサイドの大きな窓、ボディを上下に切ったようなリアのデザイン等が相まって、全体的にとってもバランス良く見えます。実は、雑誌などで「セレナ」を見たときにライバル車より優れているなと思ったのが、この全体的にバランスの取れたデザインだったのです。
 今回、試乗車をお借りしたのは、刈谷市内、国道155号線沿いにある「日産ギャラリー刈谷」です。店長の大隈様に「いい記事書いてね!」と笑顔で見送られ、「いやいや!俺は厳しいよ!!」と心の中でつぶやきながらお店を後にし、いよいよ試乗の始まりです。
■バランスの取れたエクステリア
お借りした試乗車のグレードは20Gのエアロパッケージで、運転席後部の電動スライドドア、サンルーフなどのオプションを装備したものでした。「セレナ」には、個性的でスポーティな20RS、20RX、落ち着いた高級感のある20S、20Gと、グレードによって2種類の顔があります。どちらも基本構成は同じですので、走りや乗り心地に差はないのですが、少しの外観と装備によって別れているようです。個人的には「セレナ」と一目で分かる20RS、20RXが好みですが、20S、20Gの豊富な装備も捨て切れず、思案のしどころとなるでしょう
全体の外観はエルグランドと同じようにスクエアな形状で、外から見ても内部空間が広い事が容易に想像できるものです。先にも書きましたが、全体的なバランスが良く、エアロパーツが無くても十分安定感のあるデザインに仕上がっていると感じました。特にボディを上下に切ったようなリアのディテールは、背の高さを感じさせず、のっぺり感を無くした良いデザインですね。よく思うのですが、日産の車ってリアのデザインが特徴的でいい感じだと思いませんか?
■開放的なインテリア
ミニバンに乗ると運転手の肩の真横辺りにBピラーが来るものが多いのをご存じですか?この事によりセカンドシートからの視界や開放感は得られるのですが、フロントシートに乗る人間にはチョット邪魔な気がするのもです。しかしこの「セレナ」は、Bピラーの位置が運転手の肩よりも後方に位置していますので、運転席、助手席での違和感が一切ありませんでした。そのためセカンドシートからの視界に影響するのかと思いきやそうでもなく、よくよく見るとBピラーが意外に細いことに気がつきました。最後部のピラーはさすがに細いとは言えませんが、その前のCピラーも結構細く仕上げています。そのおかげで両サイドの窓が大きく、開放感と共に視認性の良さが際だちます。また、運転席、助手席側の窓の形状が特徴的で、決して新しいデザインではないのですが、開放感を得るのに効果的なものとなっています。運転席から少し左に目線を移したときの視認性の良さは一級品といえるでしょう。そして、その窓の中間に配置されたドアミラーの位置がとても良い位置に配置されており、大きな窓の視界を妨げておらず、またドアミラーの下に窓の空間があると言うだけでこれほどまでに視認性が良いものになるとは驚きでした。試乗した車の内装がサンドベージュだった事もあり、室内も明るく、余計に開放感を感じたのも事実です。
 シートは少し堅めに感じましたが、ユッタリとサイズは大きめ。座面の前後寸法が大きく、大腿部をしっかりサポートしてくれるのには好感が持てます。ただ、未調整でのヘッドレストが低く設定されており、どの席でもシートポジションに合わせた高さ調整を行わないと、背中に違和感を感じることがあります。
 ドライバーズシートは、上下の高さ調整幅がとても大きく、シチュエーションに合わせてポジションを変更するのもおもしろいと思います。高速走行時には低いシートポジションで安定感のある運転を楽しみ、タウンユースでは高いシートポジションでフットワークのよい扱いができます。3列シートが様々なシートアレンジができるように、ドライバーズシートも目的に合わせたポジションを、一度おためしあれ!また、オプションの「わいわいパック」を選ぶとフロント、セカンドシートの背面に簡単なテーブルが取り付けられ、全席にカップホルダーとコンビニフックが付きます。チョットした事ですが、長距離の移動にはとても便利な装備だと思いました。
 セカンドシート、サードシート共に座面が大きく、足下も十分に広いものです。ただ、ラゲッジスペースを大きく取ろうとした場合に、サードシートを前方へ移動させる必要があり、その場合は足ものとスペースは少々犠牲となるようです。え?サードシートを前方へ?そう!跳ね上げ式のサードシートにも関わらず、前後の位置調整ができるのは嬉しいですよね。

■このクルマの大きさ、2リッターで大丈夫?
今回の試乗では、大人8人のフル乗車とはいきませんでしたが、大人4人+子供1人(ジュニアシート)という構成でのレポートとなります。まぁ大人8人が乗車する事は滅多にない事だと思いますので、一般的によく利用する人数ではないかと思いますし、毎日の生活ではもう少し少ない人数かも知れません。
 外観の大きさから想像するに、2リッターエンジンではチョット物足りないのでは?と、正直チョット心配でしたが、運転しはじめてすぐに市街地は2リッターで十分だと感じました。加速感はとても滑らかで、CVTとのマッチングがとても良く、トルクコントロールがいい具合に設定されていると思います。決して機敏ではないのですが、アクセルを踏めばすぐに車体が反応しますし、アクセルをあけるとエンジンブレーキがかかります。当たり前のようですが、これらのタイミングに違和感がない事は重要で、微妙なタイミングのずれがあれば運転手は敏感に感じ取ってしまうのです。
 一般道から高速、そして山道と走りましたが、パワー不足を感じる事はありませんでした。昔は、「ワンボックス=遅い」というイメージがあったのですが、ここ10年くらいの間にすっかり聞かなくなってきました。しかし、それも2.4リッターや3リッター、3.5リッターの大排気量のミニバンが多くなってきたことも大きな要因で、2リッターのミニバンがここまで軽快に走るようになったのは最近の事だと思います。
 アクセルの感覚、ステアリングの操作感、共にマイルドという表現が一番近いと思うのですが、それでもエルグランドの様なビッグサイズのものに比べると軽快に操作できるものとなっています。もう一つの特徴として、車内に聞こえるエンジン音が押さえられており、そういう事も含めてトルクのある走りを感じさせます。

■普段の足にも使える操作性
日産自動車からのコメントでは、5ナンバー枠でできるだけ大きなサイズとし、5ナンバーの「ナンバーワン」を目指して開発したそうです。また、5ナンバー枠で背の高いクルマの市場は日本にしかなく、そのために日本人の使いやすい事を全て考えて取り入れたとも。なるほど、走りを追求したクルマはグローバルな視点から世界に通用するクルマ作りを目指し、使い勝手を追求するクルマは使う人を絞り込んで開発すると言う理にかなった手段だと感心しました。実際に普段の足に使う事や、奥様方が主に使う事も容易であろうと感じましたし、一見とても大きく感じるのですが、室内から改めて横幅を見てみると意外に扱いやすいサイズであるとが確認できます。この辺りはさすがに5ナンバー枠のメリットでしょう。
窓の大きさは開放感だけでなく、ドライバーからの視認性にも大きなメリットがあります。両サイドの窓だけでなく後方の窓も大きいおかげで、両サイドや後方の視認性が非常に良く、バックでの駐車時に周囲の状況を確認しやすくなっています。普段の使い勝手の良さは、こんな所から感じられるのでしょう。

■意外にソフトな足回り
日産車は足回りが堅いというイメージがあったのですが、この「セレナ」に関しては柔らかく感じました。それでもホイールベースが長いおかげで高速での直進安定性は良く、とても楽に運転が楽しめます。ただ、背の高いクルマなので横風に対してはどうしてもハンドルや車体から伝わってきます。この辺りは5ナンバー枠がデメリットとなっているようです。

■シートアレンジの集大成?
日産には、エルグランド、プレサージュ、ラフェスタなどのミニバンが存在します。ミニバンにおいてシートアレンジには各社様々なアイデアを注ぎ込み、そのシートアレンジの使い勝手がミニバンの売れ行きさえも左右するほどになっているようにも感じます。ただ、限られた空間の中での事ですので、ある程度出し尽くした感があるのも事実でしょう。そんな中、この「セレナ」では、日産のミニバンにおけるシートアレンジの良いところを全て取り入れた、集大成であると聞きました。移動するセンターシートやベビーフレンドリーモードなどの採用がそれで、加えてシートアンダーボックスと共に可動するアレンジなども盛り込まれています。しかし、ユーザーからすれば自由なレイアウトは当たり前!できて当然!!と言ったところではないでしょうか。そんな中、シートアレンジに関して、今回の「セレナ」での最大の特徴がここにありました。
「セレナ」は、シートアレンジに要する力が非常に小さくて済むのです。この事は日常の使い勝手でとても大切な事。普段使うのが奥様方ならなおさらのことだと思います。小さな子どもの手をつないだまま、任意のシートアレンジを行う必要性は常にあると思われますが、意外に簡単なようで今までに無かったものなのです。
特にサードシートのアレンジには、男性でもかなりの力を要し、これじゃ女性には無理だな・・・と常々思っていました。しかし、この「セレナ」のシートアレンジには、片手でもある程度こなせてしまうほど力が必要ありません。実際、取材中に写真を撮りながらシートアレンジを変えようとすると、カメラを持ったまま片手での操作を余儀なくされてしまうのですが、そんな状況下でも至って容易でした。もちろん、力が少なくて済むだけでなく、シートアレンジを行うためのレバーが必要なところには必ず付いていて、どの位置からでもシートアレンジがしやすい工夫がされていることを忘れてはいけません。

■あれもこれも欲しいオプション群・・・しかし!
「セレナ」20Gには標準装備として備わっているものも、他のグレードではメーカーオプションとして設定されているものが多くあります。メーカーオプション品は後から付ける事が難しいため、購入時に十分検討する必要があります。もちろんあると便利なものばかりなのですが、そのまま価格に跳ね返ってきますので悩むところですね。中でもおもしろいと思ったのが「インカーホン」で、想像していたよりも大げさなものでなく、実際にスイッチオンしてもマイクとスピーカーで話しているという感覚はありませんでした。しかし、この「インカーホン」があるのと無いのではまったく違い、サードシートまでよく使う人には是非お勧めします。インテリジェントキー、サイドドア、バックドアのオートクロージャーも捨てがたいですね。

■ここが残念!
普段の街乗りではあまり感じないのでしょうが、長距離を移動する場合のアイテムとしてセカンドシートに肘掛けがあっても良いと思いました。マルチセンターシートを利用する手もありますが、ドア側にチョットした凹み、もしくは薄くてもいいのでシートに肘掛けなどあれば最高ですね。また、カラーレパートリーが少し地味なような気もします。

■試乗を終えて、
チョット堅いかなと思っていたシートも長距離座っていてもあまり疲れる事はなく、逆に体を安定して支える事ができました。エクステリアのバランスが良く好感が持てた「セレナ」。乗ってみてもエンジンパワー、乗り心地、操作感などのバランスが非常に良く、総合的に見ても高いレベルであると感じました。運転手だけでなく、同乗者も何処かへ行きたいという気にさせる快適感が、この「セレナ」にはあるようです。