V36 スカイライン試乗記
(2006年12月20日記)

私は、2003年10月に発売になったフェアレディZ・ロードスター(Z33)から新車が発売になる都度試乗記を書かせていただいています。今回の新型スカイライン(V36)で17台目となるのですが、冒頭の挨拶のとおり、久しぶりの試乗となりました。日産自動車は2005年12月21日に新型シルフィーを発表して以来、軽乗用車のOEM発売、従来型のマイナーチェンジはあったものの、今回発売の新型スカイラインまで乗用車での新型車はありませんでした。スカイラインの発表が11月20日ですから、有に11ヶ月、一年近く新型車が出ていなかったことになります。

さて、この「スカイライン」というクルマですが、1957年に初代のALSI系が発売されてから来年で50年にもなる日産の中でも特に歴史のある車種です。昨今、日産自動車は「サニーをティーダ」、「セドリック・グロリアをフーガ」と言うように、長年親しまれてきた車名の改名や廃止を行いイメージを一新しようという傾向にあった中で、ここまで長い歴史を持った「スカイライン」は、日産自動車にとっても特別な位置づけであることが理解できます。もちろん、作り手側の日産自動車だけでなく、我々ユーザー側からの「スカイライン」、日本の自動車史における「スカイライン」、さらにはモータースポーツの世界においても決して無視することのできない存在であることに間違いありません。そしてその12代目のスカイラインが今回発売になったのですが、皆さんはご存じでしょうか?スカイラインにはジンクスと言いますか、その型式番号によって雑誌などで囁かれていることがあります。それは、「形式が奇数のスカイラインは売れない」というもの。逆に「形式が偶数のスカイラインは売れる」と言われています。結果的にそうなっているのですが、先代の「V35」は奇数であり、世間から「あれはスカイラインじゃない!」とまで言われていたのも記憶に新しいことでしょう。今回発売されたスカイラインは「V36」、そう!偶数の形式ナンバーを持つスカイラインなのです。当然、日産自動車内でも意識しているはず!日産自動車として約1年ぶりの新型車・・・、スカイライン50周年に相応しいものか?・・・と、自ずと期待は高まります。

新型車が発売されたとき、多くの方がまずTV-CFや新聞広告でそれを目にすることと思います。そこには全体のスタイリングやイメージ、主要な装備がPRされています。この時点で興味が起こらなければそれまで!・・・となるのですが、もし少しでも興味がでればネットで調べたり、販売店に出向きカタログを入手しようとするのではないかと思います。この時点でそのクルマのほとんどの情報が入手でき、ここまでの情報のみでクルマを評価してしまうことも多いと思います。

SHIFT_passion スカイラインはときめきをシフトする
人々の心に新たなるときめく気持ちを呼び起こさせるスポーツセダンへ。

新型スカイラインのキャッチフレーズです。
このキャッチフレーズにある「ときめく気持ち」は、カタログから伝わりましたでしょうか?もちろん、それをカタログでも伝えられるようデザインされているのでしょうが、私がカタログから得たものはスタイルやディテールなどの見た目、色、数値・・・などなどで、数値などの向上は確認できたものの、フーガに似た顔、ボンネットのラインやリアフェンダー後部のプレスラインなど、表面的なものの指摘ばかりが頭に浮び、「ときめく気持ち」や新型スカイラインに対する日産自動車の意気込み、スカイライン50周年に相応しいものかどうかの判断はできなかったのが正直なところです。この時点で私が感じたのは、「スカイラインも大人になったなぁ・・・。もっとスポーティであってほしい」というもので、「スカイラインには別でクーペが用意されるから、セダンはフーガに続く高級志向になるのか。」と思った反面、以前「フーガ350GTスポーツパッケージ」を試乗させていただいた折、上級セダンである「フーガ」の足回りやエンジンが想像以上にスポーティだったことに対して、ラインナップ上さらにスポーツ指向であるべきのスカイラインの立場が中途半端にならないか?という懸念を抱かざるを得ませんでした。

そしてこのイメージから抜けきれないまま試乗の日が近づきました。

前置きが長くなりましたが、いよいよ新型スカイラインの試乗を行うべくお店へお伺いました。新型スカイラインは店頭の入口横に展示されおり、すぐに目に飛び込んできましたが、実車はカタログで見たそれよりもスポーティーに見えました。今回試乗させていただくのは、3.5リッターエンジン搭載の「スカイライン350GT Type SP」4輪アクティブステア付きのものでした

■動いている姿がとても格好いいスタイリング
このクルマのデザイナーは、FR車であるということを表現するために「ノーズは長く、キャラクターラインはリアタイヤに巻き付くように処理し、シルエットにもウェッジシェイプ(前傾のシェイプ)を用い、後ろ脚で大地を蹴り上げるプロポーションにした」と語っていました。カタログで見たときに、このリアタイヤに巻き付くようなキャラクターラインが賛否(好き嫌い)を呼ぶだろうと気になっていましたが、実車を目の当たりにしたときにはさほど気にならない程度のラインであると感じました。更に、フーガに似ていると感じた顔周りも思ったより立体的で、フロントフェンダーからライトへの造形が独特のものでした。このクルマは写真より、実車、そして何より動いている姿がとても格好いいし、インパクトがあると思います。カタログでは、先代のスカイライン(V35)とあまり変わっていない様に感じましたが、実車を見るとボリューム感、ディテール、全く違いますね。そもそも、クルマ全体から感じる雰囲気が全く違います。強いて言えば、少しフロント部分が分厚いかなと感じます。確かに存在感はあるのですが、私の好みとしてあと5cm位は下げても良いかな?と。
■遊び心を忘れていない「余裕」を感じさせるインテリア
先代のスカイライン(V35)で特に評判が悪かったのがインテリアデザインでした。直線的なデザインで、どことなく古さを感じたものでした。評判の悪かったものと比べるのもどうかとは思いますが、新型スカイライン(V36)はこれまた全く別物!落ち着いた中にも大人の遊び心をくすぐるデザインとなっています。まず目を引くのが、ダッシュボードからセンターコンソールへのライン。大型のセンターコンソールは、まるでクーペの内装を見ているようで、コックピットのようなスタイルは昔からのFR好きな人には心をくすぐられることでしょう。更に、ダッシュボードからドアへ日本刀の刃の様なラインが、シャープさとスピード感を演出しています。試乗車は和紙のような表面仕上げを持つアルミフィニッシャーで、決して豪華ではないのですが大人の落ち着いた、しかも洗練されたイメージがありました。この新型スカイライン(V36)は50歳代をターゲットにしていると言うことですが、落ち着いた中に遊び心も忘れていない「余裕」を感じさせます。
■シートポジション
シートは幅広でゆったりと座る感じ。決してバケットタイプのシートではないのですが、少し堅めで独特な体へのフィット感を得られます。シートに腰を下ろすと少し狭いようなイメージを受けますが、腰から上の空間は広く、下半身部が狭くなっているため、包み込まれているようなホールド感があります。ダッシュボードの高さに対してメーターの位置、ハンドルの位置が低く、目に見える景色(視界)にそれらが干渉しないため、フロントの長さを意識させることはありませんでした。「下に視界が広い」という表現が適切かどうか分かりませんが、さほど身長の高くない私でも直近まで見えている気がします。また、フーガと同じようにシートのメモリー機能があり、エンジン始動と同時に記憶されているポジションへ自動調整されます。さらに、シートの前後、リクライニング等の調整に連動しハンドル高さ・距離やドアミラーの角度が自動調整される機能が加わりました。
■気持ちを高める演出
メーター関係は格好いいですね。そもそもメータって機能的で動きがあって洗練されていて・・・・決して落ち着かせる必要は無く、美しい透過式のメーター、赤く浮かび上がる中央部の情報表示パネル、手前のワイパー・シグナルレバー、更に手前のアルミ製パドルシフト、ステアリング・・・と、とてもメカニックでバランスが良く、ドライバーに運転をワクワクさせている要因の一つとなっていることは間違いないでしょう。アルミ製パドルシフトは、通常運転で決して多用しないとは思うのですが、ドライバーに対して一種独特の特別感を与えています。ドライバーの視点、助手席の視点、後部席からの視点・・・・乗る人の視点で感じる印象はすばらしいものでした。
室内は静かで、普通に走っているとエンジン音もさほど気になることはありません。しかし、アクセルを踏み込むと途端にその表情は変わり、室内に響くエンジン音は私たちが今まで知っているセダンのエンジン音とは思えないものです。それは決して耳障りな騒音ではなく、VQエンジンのトルクフルな心地よい音であることは言うまでもありません。
■「High Revolution」「High Response」エンジン
新型スカイライン(V36)に搭載されているのは、V型6気筒DOHC自然吸気2.5リッターの「VQ25HR」と3.5リッターの「VQ35HR」です。「VQ25」、「VQ35」エンジンと言えば、従来からの継続のように感じますが、エンジン型式のHRは「High Revolution(高回転)」「High Response(高応答性)」の略で、シリンダーブロック、ピストン、ベアリング、吸排気系、カムシャフト制御など、性能向上にかかわるほぼすべての部分が新設計となった新エンジンと言っていいほどのものとなっているのです。たとえば、もともとの「VQ35」エンジンは3.0リッターエンジンベースのため高回転域で微妙な振動があったようです。それに対し「VQ35HR」エンジンは3.5リッターが標準設計、3.8リッターはなんのその、4.0リッター超えくらいまでOKなエンジンだそうです。カタログやTV-CFではあまりパワーを表に出してPRしていませんが、最大出力315ps/rpm、最大トルク36.5kgm/rpmあるんですもんね。実際に運転してみると、踏みはじめのアクセルの重さが多少気になるものの、踏み込めばクルマは軽く加速します。何だか自然と大人っぽい落ち着いた走りになります。ただ、アクセルを踏み込んだときのパワーは半端じゃありません。何気なくアクセルオンしてしまうとビックリさせられますのでご注意あれ。
■動き出した瞬間から感じる足回り
リアサスペンションは旧型と同じマルチリンク式が採用されていますが、フロントサスペンションは旧型のマルチリンクに対し、新型ではダブルウィッシュボーンへとレイアウトが変更されました。高級セダンのようなフワフワ感は全くなく、セダンとしては堅めの足回りで動き出した瞬間からシッカリした足回りだと言うことが伝わってきます。そのためハンドルがシビアで、路面状況がステアリングにダイレクトに伝わってくるようです。スポーツカーに近いハンドリングというのでしょうか、とてもフットワークが良く、運転することが楽しくなるものでした。昨今ではFF車が多い中、FRらしいハンドルの感触が心地よく伝わってきます。
今回試乗させていただいた「スカイライン350GT Type SP」には、4輪アクティブステア(4WAS)が装備されていました。4WASは、「350GT」の「Type SP」「Type S」にメーカーオプション設定されているのですが、もともと世界初の4WS(4輪操舵システム)は旧スカイライン(R31)が搭載し、今回オプションの4WASはその進化系と言えます。4WASの基礎となっていっるのが、皆さんもよくご存じのHICAS。旧スカイライン(R31)以降、スーパーHICAS(R32)、電動スーパーHICAS(R33)、と開発が進められてきたものです。この4WS技術、今では日産のみが開発を進めているものだそうで、新型スカイライン(V36)に設定されている4輪アクティブステア(4WAS)は、ドライバーの操縦パターンを徹底的に研究し、スポーティドライブの邪魔にならないようセッティングされているそうです。
■ドライビングプレジャー
ドライビングは本来、本当に楽しいこと。私自身、新型スカイライン(V36)は、その喜びを再認識させられたクルマでした。走り出した瞬間、これから始まる試乗にワクワクし、実際に楽しむことができました。
実は、過去16台試乗させていただき、良い意味で一番意表を突かれたのが「フーガ350GTスポーツパッケージ」でした。先にも書きましたが、フーガの350GTスポーツパッケージが非常にスポーティーな乗り心地であったのに対し、スポーツセダンと言われるスカイラインはどの様な味付けをしてくるのだろうと本当に興味津々でした。フーガの場合、上級セダンであるという認識から、試乗中最新装備などを楽しみながら運転し、山道にさっしたとき「あれ?想像以上にスポーティーだな」と感じ、それ以降更に運転が楽しくなったという経験があるのですが、この新型スカイライン(V36)は乗った瞬間から「こいつはかなりスポーティーなセダンだな」と感じることができたのです。中途半端な仕上がりになることばかり懸念していた自分としては、まさに目から鱗が落ちる思いと言っても過言ではありません。日産ってこんなクルマが作れるんだ!と嬉しくなってきたのも事実です。
■セダンが面白くなってくると、クルマ全体が面白くなってくる
新型スカイライン(V36)はとてもスポーティなのですが、あくまでも大人のスポーツセダン、当然フェアレディZのような軽快感は押さえられています。しかし、五感に訴えるトータルバランスはハイレベルであると感じました。「スカイライン」は日産を代表する車名の一つ、新型スカイラインに対する日産自動車の意気込みを理解することができ、スカイライン50周年に相応しいもであると確信させられました。価格帯は高いのですが、このグレード、この乗り心地、このデザイン、ドライビングプレジャー・・・・・コストパフォーマンスは高いと思います。

■カタログ写真からは伝わらない!
もし皆さんが、試乗前であったとすると是非販売店に足を運び、試乗を申し出てください。私の下手な文章では伝わりきらなかったものを、キット感じていただけると確信しています