2007年8月22日に発売された2代目エクストレイル。先代の発売から7年目でのフルモデルチェンジです。新型エクストレイルのキーフレーズは「SHIFT_challenge spirit」(チャレンジ・スピリットをシフトする)で、初代エクストレイルの走行性、機能性を継承し「ガンガン使えるタフ・ギア」へ進化したとのことです。
新型エクストレイルの最大の特徴は、最新の電子制御4WDシステム「オールモード4×4-i」の採用、更に「ヒルディセントコントロール」と「ヒルスタートアシスト」の機能を加えることで、ドライバーの運転をサポートします。また、ユーティリティ面では、容量が大きく効率的に荷物を積めるウォッシャブルダブルラゲッジ、フル防水インテリアなど、初代から充実していた収納・快適装備を更に使い勝手の良いものへと進化させました。
エンジンは直列4気筒の排気量2.0リットルと2.5リットルで、2.0リットルモデルが2WD(前輪駆動)と4WD、2.5リットルモデルが4WDのみという設定、トランスミッションは2.0リットルモデルがエクストロニックCVTと6MT、2.5リットルモデルがエクストロニックCVT-M6(6速マニュアルモード付無段変速機)を採用しています。さらに、「今回のエクストレイルについては、徹底した市場調査を行い、お客様のわがままを最大限に取り入れた」とのことで、特に日本市場の声を反映させたモデルであるとのことでした。
さて、前回のデュアリスの試乗記にも書かせていただきましたが、デュアリスの国内発売が2007年の5月、そしてこの新型エクストレイルの発売が8月と、同じミドルクラスのSUVが僅か3ヶ月の内に続けて発売されました。デュアリスの試乗に続きこの新型エクストレイルの試乗で、その真意が見えてくるのでしょうか、早速レポートさせていただきます。今回試乗させていただいたのは2.5リットルモデルの「25X」、4WDのエクストロニックCVT-M6です。 |
■フルモデルチェンジ?キープデザインのエクステリア |
新型エクストレイルを最初に見た時、先代のエクストレイルとほとんど同じクルマに見えたのです。これは多くの方が受けた印象ではないかと思いますが、よく見ると案外違うもので先代のエクストレイルオーナーから見ると、ハッキリとその違いは確認できるようです。とは言っても、あまりのキープデザインのため新型を待ち望んでいた人たちには少々物足りなさを感じるかもしれません。日産の方にお伺いすると、キープデザインになった理由として、使い勝手や走破性を突き詰めるとこの形になったと言うことと、先代のデザインが世界的に好評であったことからとのことでした。
また、新型エクストレイルのエクステリアデザインコンセプトは“機能をカタチに”と“使い込むほどにわかる使いやすさ”の2つとのことで、デザインに関しては既に先代から極められていたということなのかもしれません。それでもユーザーの立場からするとフルモデルチェンジの一番の関心はやはりデザインの変更、時代にマッチした新しさ、斬新さを期待するのも常でしょう。個人的には、せめてヘッドライト周りのデザインにもう少し手を加えてほしかったですね。
ボリュームを強調するフェンダーやボディーラインも先代から継承されたものですが、新型ではボディーの拡張などにより先代よりも更にボリューム感を増し、クルマとしての存在感がより強調されました。エクストレイルというクルマ自体が成熟してきたということなのでしょう。全体的に4WDらしいドッシリ感が強調されて男らしいイメージが強くなり、アウトドアを好む男性からは特に支持が集まるのではないでしょうか。全車にメーカーオプション設定されているハイパールーフレールもドライビングランプと共に人気アイテムになるのことと思います。
新型エクストレイルは各所に「X」をモチーフとしたデザインが採用されています。フロントマスクやリアのピラー形状、ハイマウントストップランプなど細かなところまで拘った造りになっていて、デザイナーの遊び心が伺えます。
エクストレイルのイメージカラーは初代から一貫してレッドを採用しています。海のブルー、山のグリーンに一番映える色と言うことですが、試乗中の写真でもわかるように、まさに山の緑に赤が見事に映えています。このイメージカラーのバーニングレッドを始め人気のダイヤモンドブラック、サファイヤブルーには洗車などによる細かな傷を自然に復元するスクラッチシールドと呼ばれる軟質樹脂を配合したクリヤー塗装が施されています。山道を走破したとき草木で付く細かな擦り傷、ドアノブ周りの爪の引っ掻き傷、特にブラックなどの濃い色は細かな傷が本当に気になることがありますので、これはとてもうれしい仕様ですね。 |
■力強さを感じさせるインテリア |
シートに座った第一印象は、4WDの持つ頑丈さ、丈夫さ、また車内空間の材質から受けるイメージとは逆に”柔らかい”印象でした。シートは座席、背もたれともに体を包むようなサポート感がある形状のもので、先代のモデルでオプション設定されていた「防水シート」が標準装備されています。防水と言えば更に新型ではフロアや天井、ラッゲッジルームまですべてがウオッシャブルになっていて、まるで丸洗いでもできそうなくらいの徹底ぶりです。従来のクルマではカーペットであるはずの床周りが、すべて樹脂で出来ているのを見たときにはチョットびっくりしてしまいました。汚れがついても汚れが取れやすく、シミになったりとかが無いような素材となっているため液体に対しては安心できる反面、堅い荷物を乗せたときに傷つきやすいかもしれないので要注意です。
ドライバーズポジションから目の前に広がる光景、ボンネットからフロントガラスを経てダッシュボードまで同一の面で構成されている辺りが印象的でした。パワーユニットからドライビング空間を一体としたイメージ、ボリューム感が力強さを感じさせています。この間には当然ワイパーもあるのですが、その存在を意識させないレイアウトとなっている辺りが良いですね。また、ボンネット両サイドの盛り上がりも存在感があり、シートリフターでシートを一番低い位置に下げてもそれらがハッキリと確認できます。そのボンネット両サイドの膨らみは、動く景色に相まってクルマを動かしていることを実感させ、クルマの方向性、先に進む躍動感を感じます。
先代のエクストレイルで採用されていたセンターメーターは廃止され、メーター類は運転席の前へとレイアウト変更されました。センターメーターを採用するとどうしてもファミリーカーの様に見えてしまうのですが、新型では運転者の前にレイアウト変更されたことで機能性を重視した、ビークルからマシンに近づいたことをアピールしているかのようでした。スピードメーター、タコメーターは大型で視認性が高く中央に情報ディスプレイが配置され、必要な情報が集中表示されるのは好感が持てます。
先代の内装はクルマの強固さを感じさせるものでしたが、新型では力強いボリューム感の中に適度に柔らかさを感じさせる面とエッジ、直線と曲線の組み合わせとなりました。センターコンソールやメーター周辺のデザインは最近の日産デザインのエッセンスが盛り込まれています。ただ、そんな中にもクルマ自体のタフさが十分に感じられますので、シートに腰を下ろした時、目に入る情報からこのクルマの重厚感、力強さを感じることができるのです。
ダッシュボードの両サイドにカップホルダーがあるスペースがありますが、ダッシュボードからドアにかけてワンラウンド下がったラインがこのカップホルダーと相まってとてもスマートなデザインであると感じました。何とカップホルダーにフタが付いているのですが、このフタがあるのと無いのとではデザインが大きく異なり、ダッシュボード周辺のデザインにおいて、このフタの意味は大変大きいと思います。
後席のシートも大きくゆったりと座ることができ、センターに配置された肘起きは大型でとても使いやすく感じました。また、乗員全員が快適に過ごせるようにと、後席にもエアコン噴出し口が備わっています。 |
■足回りの第一印象は「柔らか」 |
前回のデュアリス試乗記で、ザックス製のダンパーをもっと多くの国産車に採用しても良いとでは?と書きましたが、なんとこの新型エクストレイルにもそのザックス製のダンパーが採用されています。そう聞くと、自ずとその走りに期待が高まります。また、デュアリスの試乗直後であるため、どのような走りなのかという想像も容易でした。しかし、実際には全く違う印象を受けたのです。その第一印象は「柔らか」、デュアリスとはセッティングが全く別物と言って良いと感じました。また、クルマの外観からみたイメージ、オフロード指向であるという印象からゴツゴツした足回りを想像しがちですが、この新型エクストレイルはとてもマイルドな乗り心地なのです。ただ、デュアリスの時に感じた乗用車のような足回りという言う感覚はないものの、緩いカーブでふらつくようなことはなく、コースをシッカリとトレースしていく感覚は足回りの良さ、クルマの剛性の高さを感じました。デュアリスの試乗時にオフロードで感じた不安は、このエクストレイルにはありません。まさに4WDの走り、道路の段差によるショックも自然に柔らかく吸収しています。
ステアリング、アクセルの感覚含め、きびきび走る味付けではなく、ユックリと力強くと言う4WD独特の印象を受けました。 |
■プラス500ccの安心感、パワーユニット |
先代のエクストレイルでは2.0リットルエンジンのNAもしくはTurboの選択でしたが、新型では排気量2.0リットルと2.5リットルと、共にNAのみとなりました。主流は2.0リットルモデルになるのでしょうが、街乗りでは十分なパワーも、エクストレイルの得意とするフィールド、すなわち山や海でここ一番のパワーを要求されたる場合や、4wdの持つ駆動形式による安心感に加え、頼りになるもう一踏ん張りが更なる安心感と走破性を生み出す、プラス500ccの選択が用意されているのです。この2.5リットルモデルは、エクストレイルの上級モデルという扱いではなく、プラス500ccのメーカーオプション的な位置づけとされているようで、2.0リットルモデルとの装備差もCVTのマニュアルモードの有無くらいなのです。
実際に試乗した感じでは、ボディーサイズから2.5リットルモデルがちょうど良いと感じました。ただ、2.5リットルのエンジンであればもう少し機敏な走りであってもよいのでは?と感じる場面もありましたので、走りの味付け自体は2.0リットルモデルも2.5リットルモデルも大差がないようにも感じます。やはりプラス500ccは、ここ一番の踏ん張りのためのようです。 |
■一般道にて |
運転するシートポジション、ドライビング中に目から入ってくる視覚情報からは大きな4wd車をドライブしていると言う感覚を感じました。先代のエクストレイルから数値上では少しのサイズアップなのでしょうが実際には数値以上の感覚を与えているようです。また、アクセルを踏んだときの初動が緩やかで、これらの感覚も相まってクルマのサイズを大きく感じさせているのでしょう。
デュアリスの試乗で感じたエッジのある段差でのダメージは、このエクストレイルでは軽減されています。主に悪路を想定したセッティングのため、うまくダメージを吸収するのでしょう。そのため、整備された道路では少々柔らかく感じるのだと思います。また、デュアリスはオフよりもオン指向であるのに対し、このエクストレイルはオンよりもオフを主なフィールドとして作られていることがわかります。 |
■高速走行にて |
高速走行でも、走りは一般道路同様に柔らかな印象を受けます。走りを楽しむと言うよりは、快適な移動空間を楽しむことに徹するのがポイントとなるでしょう。 |
■山道にて・・・安心の4WD |
このクルマは渓流脇の山道が実に似合います。コンセプト通り、アースカラーにビビッドなレッドが印象的でした。さらに、エクストレイルの得意とするフィールドは「ここだ!」と叫びたくなる衝動に駆られます。山道の坂道を登るとき、砂利道などに偶然出くわしても、不安どころか一種の挑戦心が沸き、このクルマなら何処でも走れる!そんな気がしてくるのです。まさにキーフレーズである「SHIFT_challenge spirit」なのです。
4輪が駆動すると言うこと自体で何となくワクワクし、地面に接している部分すべてにトルクがある安心感は4WD車の特権でしょう。スポーツカーにおいても、4輪が地面に対しシッカリ仕事をすれば速くコーナーを曲がることができるのと同じように、オフロード車も4輪がシッカリ仕事をすることで高い走破性を生み、安心感につながるのです。走って、止まって、曲がって・・・すべて4本のタイヤが重要なファクターになっているのは周知の通り!更に、新型エクストレイルに採用されている4WDシステムは最新のシステムである「オールモード4×4-i」。「オールモード4×4-i」と呼ばれるこのシステムは、クルマに内蔵されたステアリング舵角センサーと実際の車両状況を判断するヨーレートセンサーやGセンサーからの情報を瞬時に分析し、ドライバーが思い描くラインをトレースできるように、前後のトルク配分を細かくコントロールするという優れもの!!このシステム、日本に導入されるのは新型エクストレイルが初めてとのことでした。また、4WD車にはヒルディセントコントロール、ヒルスタートアシストといった上級SUVに匹敵するアイテムも標準装備されています。
上流に向かうにつれて狭くなる道幅とともに、登り斜面も増えてくる山道を進むと、2.5リッターのパワーが有り難く感じます。また、長い下り坂、良い感じでエンジンブレーキが掛かり一定のスピードをキープし坂道を下っていく感覚は非常に運転しやすいものでした。
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■クルマのサイズ変更を行うほど重視したラッゲッジスペース |
新型エクストレイルのおもしろいセールスポイントとして、ピクニックテーブルを積めるスペースが用意されていることが挙げられます。先日ホームセンターでBBQの時に使うまさにそのピクニックテーブルを買おうとした際、使わないときは何処に置いておくの?と嫁に一括されたことを思い出しました。マンション暮らしの我が家では、そんなスペースもままならないのです。もっともベランダに積まれたスタッドレスタイヤや、押し入れで眠る幅広タイヤ、マフラー、工具など、これらを片付ければ嫁の小言を聞かなくても済むのでしょうが・・・。話が逸れましたが、その時にこのエクストレイルを持っていれば何の問題もなかったのに・・・と脳裏をよぎりました。逆に言うと、この新型エクストレイルを買ったなら、まずホームセンターへ折りたたみのピクニックテーブルを買いに行きましょう。
クルマのサイズ変更を行うほど拘ったラッゲッジスペース。ラッゲッジスペースの拡大幅がそのままクルマのサイズアップになっているそうです。このラゲッジルームは2層になっており、折りたたみのピクニックテーブルを収納できる他、スライド式の小物入れがとても重宝します。まさに使い勝手重視、大勢のユーザーの声を聞いた成果が表れているのでしょう。
ラッゲッジルームがウオッシャブルであるためどちらかというと堅い素材で構成されているのですが、荷物を固定していないとクルマの挙動に合わせて前後左右に荷物が滑ることがあるようです。ピクニックテーブルと同時に、ホームセンターで見かける樹脂でできたメッシュ状の滑り止めマットなどの購入をお勧めします。 |
■快適装備で移動空間を楽しく、走破性で運転を楽しく |
エクストレイルの「走りの楽しみ」はオンロードではなく、あくまでもオフロードにあります。オフロードで「走りを楽しむ」為に、そこまで行く道中は景色や同乗者との会話など「移動空間を楽しむ」という使い勝手が良いと感じました。
「走りを楽しむ」、そのための最新4WDシステムと走破性。「移動空間を楽しむ」、そのためのシートポジションや充実装備。当初、オフロードメインのSUVにエアコン連動のカップホルダーや収納、後席のエアコンなど・・・・なぜそこまでファミリーユース的な拘りを重視するのか少々疑問に感じたのですが、このようにこのクルマの楽しみ方を考えると納得のいく物でした。 |
■エクストレイルの存在自体は最初から明確であった! |
冒頭で、同じミドルクラスのSUVが僅か3ヶ月の内に続けて発売された真意が見えてくるのか?という疑問がありましたが、両方のSUVを試乗させていただき明確にその違いを感じることができました。ハッキリ言って全く違うタイプの2台なのです。まさにお互いのクルマが割り切った方向性を打ち出すことで、クルマの性格が変わり、得意とするフィールドも違い、もちろんユーザー層も違います。ユーザーも住み分けをハッキリと感じていて、結果的にマーケティングの予想通りの結果となっているのではないでしょうか。デュアリスを購入する人の多くは2WDを選択し、新型エクストレイルを購入する人の何と9割が4WDをチョイスしているようです。
直近にデュアリスが発売されたことで私たちユーザーは一瞬とまどってしまいましたが、エクストレイルには既にオフロードでの歴史があり、エクストレイルの存在自体は最初から明確であったのかもしれません。あれもこれも・・・と、盛りだくさんで中途半端なクルマが多い中、得意とするフィールドに徹底して拘ったクルマ創りに好感が持てると共に、クルマを選ぶ私たちも明確なコンセプトのもと自分の方向性を見いだしやすいのではと思います。 |