Z31 ムラーノ試乗記
(2008年10月20日記)



初代ムラーノ(Z50)は、2002年に北米で発売され、北米発売から1年後の東京モーターショーで参考出品されたことを切っ掛けに国内でも発売を望む声が高く、翌年の2004年9月に国内販売が開始されました。「SHIFT_design」をコンセプトに掲げ、新しいクロスオーバーSUVというカテゴリーを打ち出し、都会的でスポーティーなデザインとSUVの持つ居住性や走破性を融合させたものでした。当時は、日本というどちらかというと保守的な国民性の中で、デザインという人の主観的な部分に対しどこまで受け入れてもらえるのか、「普通」を好む日本人にこのデザインは時期尚早ではないか・・・との声も多く聞こえてきました。しかし、国内発売から4年、そのデザインは未だ新鮮に感じ、デザイン性と機能性を求める職業の人たち、いわゆるデザイナーやカメラマンなどのクリエーター系職業の人たちを中心に根強い人気があるようです。その人気は北米、日本にとどまらず、最終的には世界80か国を超える国々で販売され50万台以上の販売実績を持つ大ヒット商品となったのです。

そんな中、昨年2007年11月のLA(ロサンゼルス)オートショーで新型「ムラーノ」(Z51)が出展され、今年2008年1月に北米での先行発売となりました。過去北米ターゲットの新型車は北米国際自動車ショー(通称:デトロイトショー)での発表が多かったのですが、昨今、日産自動車の動向を見ていると、毎年11月に行われるLA(ロサンゼルス)オートショーでの発表が多いようですね。

このムラーノと言うクルマ、もともと北米のSUV人気にターゲットを置き、北米市場ではスモールサイズのSUVとして人気がある一方、日本市場ではどちらかというとビッグサイズに位置づけられる存在ではないでしょうか。

 

■新型「ムラーノ」(Z51)国内発売

2008年1月の北米販売開始から遅れること8ヶ月、2008年9月29日に国内販売が開始されました。2007年11月のLAオートショーで発表されていましたので、既に多くの方がそのスタイルは認識していたと思いますが、早く実車が見たい!と言う声も多かったと思います。

「SHIFT_design」 ムラーノはデザインをシフトする

初代ムラーノからのコンセプトを継承したうえで、「更なる進化を遂げ、時代の先端を走り続ける」、初代ムラーノで成し遂げた「存在感のあるデザイン」に加え走行性や乗り心地、居住性、快適性にも拘ったとのことでした。
またこの新型ムラーノは、今後世界約170ケ国で発売を予定するグローバルモデルとなっています。

今回試乗させていただいたのは、直列4気筒2.5リッターの「250XV FOUR」です。この2.5リッターモデルですが、世界約170カ国で販売が予定されているなかで、唯一日本のみの設定ということでした。ムラーノらしい豪快な走りを楽しむのであれば、やはり3.5リッターだと思いますが、初代ムラーノにも2.5リッターモデルが存在していたように、日本の交通事情を考えると2.5リッターモデルは捨てがたかったのでしょう。しかし、初代モデルでは4WDと2WDのバリエーションがあったのに対し、新型ムラーノでは全車4WDモデルとなっています。

後になりましたが、新型ムラーノのラインアップは、「V6-3.5リッター」と「直4-2.5リッター」2種類のパワーユニットに、標準の「XL」、スタイリッシュガラスルーフなどが標準装備された充実装備の「XV」の組み合せとなり、「350XV」、「350XL」、「250XV」、「250XL」の4モデルとなっています。全車が4WDであることは前記しましたが、アダプティブシフトコントロール付きの新型エクストロニックCVTも全車に採用されています。

※全車にエクストロニックCVTを搭載した新型ムラーノには、『エクストロニックCVT』のエンブレムが貼付されています。このエクストロニックCVTは、優れた動力伝達効率により低燃費を実現、優れた環境性能をもつパワートレインを搭載したクルマであることの証となります。

■初代からのデザインを継承するエクステリア

「SHIFT_design」をコンセプトに掲げるムラーノの特徴は、やはりそのエクステリアデザインでしょう。初代ムラーノが発売された当初、SUVのプロポーションであるにもかかわらず、まるでスポーツカーを思わせるデザインやディテールにとてもインパクトがあったと記憶しています。むしろ、今現在でも十分通用するデザインであると思いますし、未だに人気の高いモデルになっています。その為新型ムラーノへの関心や期待感は自ずと高まり、エクステリアデザインへの興味は多くの方が持たれていたのではないでしょうか。

試乗日当日、初めて新型ムラーノを目の当たりにしたとき、そのサイズの大きさを感じました。北米ではスモールサイズであっても、やはり日本では大きな部類に属します。ただ、その全体のイメージは初代ムラーノそのままなのではないかと思わせるほどキープデザインでした。確かに初代ムラーノと比較すると、初代ムラーノが線と面での構成主体であったのに対し、線は曲線へ、面は曲面へと変更されていることに気付きます。その為、初代ムラーノではスマートに感じた全体イメージも、新型ムラーノではふっくらと膨らんだ様に見え、そのことが更にサイズアップに感じさせるのでしょう。

また、フロントフェンダーの上部、ボンネットの両サイドがスカイラインなどと同じように盛り上がった形状で、起伏に富んだデザインになっているのも特徴的です。ライト周りからグリル周辺のフロントマスクでは、初代ムラーノがまるでスポーツカーのようなデザインであったのみ対し、新型ムラーノでは少しSUVらしさを強調したものとなりました。しかし、そのフロントグリルは写真や映像で見るよりも立体的で、スラントノーズになっています。デザインは近未来的であり、ライトがライトらしくなかったり、グリルが想像以上にとがっていたり、まるでコンセプトカーがそのまま商品化されたのではないかと思わせる独特なものでした。

リアビューも初代ムラーノから継承されたデザインになっています。リアコンビネーションランプの形状が初代の縦型から横型に変更されていますが、この形状は北米で販売しているINFINITI"EX35""FX35/50"の流れを取り入れているものと思われます。

「初代の持つムラーノらしさを継承しつつ、さらに進化させる」という言葉通り、キープデザインの中にも大きな進化を遂げたエクステリアといえます。

とは言え、初代ムラーノから感じていた「近未来の宇宙船」のようなイメージはそのままで、とても流線型!。SUVと言えば空力など二の次と言ったモノが多い中、このムラーノは初代から流線型のデザインを採用し、いかにも空力がよさそうなフォルムを持っています。SUVに空力など必要ないのでは?と思いがちですが、空力がよいと燃費向上につながりますし、ムラーノのような背の高いSUVは走行中の空気が車体の下にも多く流れるため、ボディラインだけでなく車体の裏にまで気を遣う必要があるそうです。実際、エクゾーストパイプの触媒形状、取り付け位置を空力を考え試行錯誤したとのことでした。

■曲面が多用されたインテリア

新型ムラーノの特徴の一つとして“モダンアートデザイン”をうたったインテリアがあります。「曲線美が印象的で存在感あるエクステリアと作り込まれた上質なインテリア」、初代ムラーノでも十分インテリアには拘っていたと思うのですが、新型ムラーノでは「更に磨きをかけた」と言うことでしょう。

まず、ドライバーズシートに腰掛けると、曲線、曲面を多用したダッシュボードが目に飛び込んできます。「なんだこれは?」と声に出したくなるほどインパクトがありました。その形状に機能性は全くないように思えますので、単にデザイン的なものでしょう。カタログ等では全く気がつかない部分(逆に普通に見える)でしたが、シートポジションからの視線ではとても印象的でした。

その曲面のダッシュボードに、柔らかくフードをまとったメーターパネルが収まっています。初代ムラーノは、スポーツカーであるフェアレディZと共通デザインの独立したメーターデザインでスポーティー感を全面に表現したものでした。しかし新型ムラーノでは、見るからに柔らかそうな形状の中に大きく見やすい3連のメーターが収まります。ただ、3連メーターにはメッキリングが施され、スポーティーなイメージも演出しています。また、メーター周りに演出されるオレンジ色のライトが賑やかで、未来感を感じさせるものとなっています。このライトは運転中は常に目に入るところであるため、照度が調整でき消灯も可能、好みに応じて設定できるもとなっています。

シートポジションは高く、ゆったりとしたサイズのシートが大型のセンターコンソールを挟んで広い空間に配置されています。シートは堅めで、シッカリとした座り心地。大型のヘッドレストが頭にフィットし安心感を感じます。

センターコンソールの形状、特にシフトレバー付近の形状がユニークで、“モダンアートデザイン”を主張していますが、その奥には小物を置くトレーがあり、この辺りはブラックアウトされたように目立たず、「見せる」ところと「隠す」ところにメリハリを付けたデザインがとても効果的でした。

また、細かなスイッチ類にメッキトリムが施されていますが、嫌みのない程度のバランスで、何となく優しささえ感じます。賑やかではないのですが、何となく上品でオシャレですね。

室内空間は初代ムラーノ同様、大型セダンに勝るとも劣りません。当然、後部座席の足元も広く大の大人でも十分に足が組めます。ヘッドクリアランスは言うまでもありませんが、後部座席ではセンターの肘置きを利用し2名での乗車、ゆったり広々2+2の利用がお勧めです。

■犠牲になった視認性、しかし技術の進歩が自由なデザインを可能にした

外から見たクルマの大きさは、クルマに乗ってみると更に大きく感じます。デザイン性重視のため前後左右を含めた周辺の視界が犠牲になっているためでしょうか。ドライビングポジションから後ろを振り返っただけでは、安心してバックができないほど後方視界は犠牲になっています。しかし、大型の両サイドミラー、左サイドミラーアーム部に内蔵された補助ミラー、全車に標準装備されたサイドブラインドモニターとバックビューモニターが周囲の視界をサポートすることで安全性を確保することができました。技術の進歩が自由なデザインへの挑戦に貢献しているようです。

■2つのパワーユニット、国内専用の2.5リッターエンジン

新型ムラーノには2種類のパワーユニットが用意されました。V6-3.5リッターエンジンと直4-2.5リッターエンジンの2種類で、先にも書きましたが、この2.5リッターエンジンは日本のみの設定と言うことです。北米向けに誕生したムラーノですので、3.5リッターのパワーで豪快な走りを楽しむという憧れは捨てきれませんが、10モード燃費が3.5リッターの「9.3km/L」に比べ2.5リッターは「11.0km/L」と高く、しかも、先日発売されたティアナ同様、3.5リッターモデルはプレミアムガソリン仕様に対し、2.5リッターモデルはレギュラーガソリン仕様であると言うメリット、更には日本の市街地を走行する場合の交通事情を考えると、2.5リッターエンジンのメリットは非常に高いように感じます。また、日本専用である2.5リッターエンジンであれば故に、日本専用のセッティングが可能と言うことも言えるでしょう。この事はある意味、日本のユーザーにとってとても素晴らしい特別なものであると言うことなのです。

新型ムラーノの車重は1800kg前後、3.5リッターのパワーを使って余裕で動かすのも気持ちいいのですが、それが全てではないことは十分に理解できると思います。

■2.5リッターモデルは走行性も日本仕様

初代ムラーノの走行性はスポーティではあるものの、その車高の高さからワインディングでの左右のロールが少し気になりました。それ以外は全て納得できるものでしたので、当時はとても残念に感じたものでした。
新型ムラーノでは、新型プラットフォーム(D-プラットフォーム)の採用によりスポーティでしっかりとした走り、4輪リバウンドスプリング内蔵の新開発サスペンションを採用し、車体安定性に加え乗り心地も大幅に向上したとのことです。更にエンジンマウントを数センチ下げるなど、低重心化にも取り組むなど、走行性にはかなり重点を置いた設計となりました。実際に運転してみると段差では少しショックを感じるものの、左右のロールは見事にコントロールされています。

新型ムラーノは、全車にALL MODE 4X4-iが採用されました。この4WDシステムは、悪路を走破すると言うよりも、コーナリング時の安定感、操作性を向上すると共に、ドライバーが思い描く自然でなめらかなコーナリングラインを実現することを主な目的としているようです。もちろん、もともと4WDは不安定な路面に対し4輪全てを使って最適なトルク配分を行えるというもので、雪道や急勾配に対してのみのものではなかったのも事実ですが、新型ムラーノでは高い重心をコントロールする走行性向上に大きな役割を果たしています。もちろん、雪道や悪路でもその真価を発揮することはいうまでもないでしょう。一般的なスピードでワインディングを走行した際、気になる左右のロールもなく、とても快適にクルージングを楽しむことができました。

そして一般道で驚いたのが、新型ムラーノの静粛性でした。さらに、一般道を周囲の流れ(約40km/h~約70km/h)に乗って走行していると、その静粛性に加え、運動性、操作性、居住性全てが高次元で相まって、素晴らしく快適な移動空間だったのです。2.5リッターエンジンのパッケージングが、この辺りをターゲットにしているのであろうと容易に理解できた瞬間でした。日本の道路事情から考えられた2.5リッターエンジンのパッケージング、通常では低速走行(~70km/h程度)が多いと考えると、この2.5リッターモデルは日常生活においてとても扱いやすい仕上げになっています。

高速走行もとても静かで、エンジン音、ロードノイズも気にならないほどです。ムラーノもデュアリスと同じように街乗りをメインにセッティングされているだけあって、流石に整備された道路での居住性は高いと感じました。
ただ、一般道でも少し気になった段差のショックは、高速ではダイレクトに伝わってきます。

一方、一般走行時には気にならなかった2.5リッターエンジンのパワーですが、高速走行時にはアクセルの反応含めパワー感は今ひとつです。1.8t近い大きなボディーを動かしていることもあり、知らないうちにスピードが出ていた・・・と言うことはなく、アクセルを開けた分だけ走る・・・と言った感覚ですか、何となく人の感覚と直結したアナログなイメージを受けました。とは言っても、2.5リッターエンジン自体が小さなエンジンではないため、通常使用において全く問題は無いと思います。

当然のことながら、これくらいのボディサイズになると、高速道路では3.5リッターの方が楽に運転を楽しめるのでしょうね。

高速から一旦サービスエリア内に入る場合、高速走行から低速走行へと移行するのですが、その低速時のアクセルワークに対してクルマの動きがとてもスムーズで、低速におけるクルマのバランスがとても良いと再認識しました。

3.5リッターモデルでは、それにらムラーノの基本性能に加えて圧倒的なパワーと高速時のスムーズさがプラスされると思われます。

■快適な装備と使い勝手を向上させる装備

新型ムラーノの装備として最も大きいものが2.5リッター、3.5リッター共に「XV」で採用されている「スタイリッシュガラスルーフ」でしょう。クルマを上から見た場合、一枚のガラスでルーフを覆っているように見えますが、車内からは前後2分割されています。フロントのガラスルーフは電動のチルトアップやスライドオープン機能があり、室内をとても明るい空間にすると共に、時には自然の風を感じ、季節を感じるアイテムとしてロングドライブの演出に一役買うことでしょう。

私がとても好感が持てたのは、センターコンソール前方奥にあるトレーと、更にその奥にあるアクセサリー用電源ソケットの配置でした。そのトレーは材質が硬質のラバーでできており、程良いグリップがあることから走行中でも小物が動かないように工夫されています。携帯電話などを気軽に置くにはとても便利です。そして何より、そのトレーが目立たないことにチョットした発見があります。通常、小物入れに小物や財布などを置いた場合、それが原因で車内の雑さが目立つ場合があります。しかし、ムラーノのセンターコンソールの形状から、シフト周辺のモダンなデザインに隠れるように存在するそのトレーは、決して隠れているわけではないのに、そこに小物があっても全く気にならないのです。とても使い勝手がよく、よく考えられたものでした。

エンジンスタートは、キーをポケットに入れたままブレーキを踏みスターターボタンを押すだけ。インパネのメーターが一瞬フルスケールまで上がり、その後定位置に戻り、次に燃料系と水温計がジワッと上昇します。ドライバーに対し、ドライビングプレジャーを掻き立てるギミックで、新型ムラーノはプレミアム志向であるものの、初代ムラーノから受け継がれる「スポーティさ」も感じる事ができます。

細かなことですが、新型ムラーノには周辺環境の明るさに応じてライトの自動オンオフを行うオートライトシステムが全車に標準装備されています。そのスイッチにおいて今までの日産車は「OFF → スモールライト → ヘッドライト → AUTO」の順序であった事に私自身少々違和感を感じていました。しかし、いつから変更されたか解りませんが、この新型ムラーノに採用されているスイッチが「OFF → AUTO → スモールライト → ヘッドライト」と変更されていたのです。何気ないところでも少しずつ改善されているのだと再認識した瞬間でした。

ムラーノのラッゲッジスペースは高く、チョット重い荷物を積み込むには少し力が必要になるでしょう。荷台の下に収納機能があるのですが、洗車道具や小物を収納するには非常に便利です。しかも、荷台の前後に分割に分かれた収納スペースは、奥にスペアタイヤ、手前はワンタッチで開くトレー方式になっています。前後で分割されていると言うところがミソで、トレーの上に荷物があった場合でも、一旦奥に重ねることで出し入れが可能となります。しかし、使い勝手の面からいうとエクストレイルのような引き出しタイプにはかないませんが・・・。

■強さと優しさ、二面性を持つ新型ムラーノ

スタイリッシュなムラーノといえども、SUVというカテゴリーのクルマの外観はやはり強固な感じを受けます。しかも新型ムラーノの場合フロントのグリルなどを見ると、かなりとんがったイメージがありとても金属質。しかし、内装においては「曲線を多用したデザイン」、センターコンソールの「モダンデザイン」、シートの「質感」など、とても柔らかなイメージを受けます。そう、強固な外観に比べ内装には柔らかさ、優しささえ感じます。こんな二面性を持った新型ムラーノですが、初代ムラーノ同様、デザイン性と機能性を求める職業の人たち、加えてプレミアム性を求める人たちに人気がでそうです。

郊外の一般道を中心とした2日間の試乗で、ディスプレイに表示される平均燃費は「10.4km/L」でした。2.5リッターモデルは、レギュラーガソリン、低燃費に加え、走行性のバランスを考えると、生活に密着し普段の足として使うユーザーに最適な味付けになっています。一方、3.5リッターモデルでは高速道路を使うようなロングドライブが多い方にお勧めです。実は、3.5リッターモデルと2.5リッターモデルの外観は全て同じ、エンジン音以外区別がつかないというのも、選択肢を広げますね。

高山方面と名古屋駅周辺で試乗及び撮影を行いましたが、周囲の人々の関心が多かったのは名古屋駅周辺でした。やはり都会的なイメージが合うのでしょうか。