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日産には、日本を代表するクルマが多く存在します。
しかもそれらは、全世界に多くのファンを持つ世界的な存在となっています。
その先駆けとなったのが、1969年に美しいロングノーズ、ファストバック・ボディに身を包んで登場した初代フェアレディZですが、アメリカを中心に爆発的に売れたことから「世界で一番売れたスポーツカー」として今もなお語り継がれています。
1969年に登場したフェアレディZは、S30型、S130型、Z31型、Z32型と進化を続けたのですが、米国でのスポーツカー販売台数が激減し、1996年7月には米国向けの生産が打ち切られ、国内でも2000年8月に生産が終了します。事実上、日産の看板から「フェアレディZ」の文字が消え去った瞬間でした。その後も国内外共にスポーツカー人気は上がらず、このままフェアレディZと言う名前は歴史の1ページに刻まれるのみの状況となっていたのです。
しかし、2002年7月30日「日産リバイバルプラン」における日産復活のシンボルとしてZ33型フェアレディZが復活、日米同時発表&発売されたのでした。日産自動車の復活、日産を代表するフェアレディZと言うクルマの復活として大きな話題となったのも記憶に新しいところでしょう。
さて、そのZ33型フェアレディZはイヤーモデルと称し毎年マイナーチェンジを行うという偉業を行ってきました。常に一番新しいエンジン、常に一番新しい足まわり、常に一番新しい技術を「Z」に注ぎ込んできたのです。そして、Z33型として「全てをやり尽くした」との判断、更なる進化を目指して今回、Z34型へのフルモデルチェンジとなったようです。
今回試乗させていただいたのは、Z34型フェアレディZ VersionSTで、19インチアルミホイール、本革パワーシートを標準装備したものです。ボディカラーはブラウン調のタイタニウムグレー、オレンジ色の本革シートとのマッチングで落ち着いた中にもスポーティな雰囲気を醸し出しています。 |
■第一印象はキープデザイン、キープコンセプト? |
初めて新型フェアレディZ(Z34型)を見たのは、出張先のとあるモータープールでした。発売前でしたので近くまで寄ることはできませんでしたが、少し離れた場所から見た印象は、Z33型のデザインを継承していると感じました。確かに個々のディテールはかなり変更されてはいるのですが、全体のシルエットがそう見えたのです。
また、デザインがキープデザインならコンセプト自体もキープコンセプトであろうと、勝手に思いこんでしまった自分がそこにいました。
試乗当日、新型フェアレディZ(Z34型)に近寄ると、思っていたよりもサイズは大きく感じられ、全長が短くなったと言う印象は少ないものでした。それよりも正面から見たときのワイド感が印象的です。とは言うものの、横幅のサイズアップと全長の短縮、更には窓の小ささが相まって前後方向に縮まった感はあります。
先代のZ33から比べると、エンジンは3.5リッターから3.7リッターにアップされ、その為に安全性能ボディーの制約上約100kgの重量が増すこととなるそうですが、新型フェアレディZでは、その100kgの増加分をボディーの軽量化などにより-100kgを実現しています。ホイールベースが100mm短くなったことも軽量化に多少は貢献しているのかも知れませんが、クルマを輪切りにして100mm縮めたところでその殆どが空気であることから、「-100mm」イコール「-100kg」と言うわけにはいかず、ボディシャシーの見直しを含め、従来からのアルミ製ボンネット以外にもドアパネル、リアゲートなどの部品にアルミ素材を採用するなど相当の苦労をしたそうです。
数値的に見ても先代よりもパワーウエイトレシオが大きいことは明白で、さらにホイールベース短縮により運動性も向上していることが伺えます。
第一印象で感じたキープコンセプトは、少々違っているかも知れません。 |
■動物的なイメージを持つエクステリア |
第一印象で感じたキープデザインも全体的なシルエットのみで、見れば見るほどその違いを感じることとなります。Z33が緩やかなラインで構成されているのに対し、新型フェアレディZ(Z34型)では、躍動的な曲線が多用されています。TV-CFではアスリートのイメージで新型フェアレディZ(Z34型)を伝えていますが、まさに躍動美を感じさせるものとなっています。試乗の途中、偶然マンションの14Fから下に停めてあった新型フェアレディZ(Z34型)を見たとき、そのグラマラスな造形が周囲のクルマとは一線を画するものとなっていました。
特徴的なコンビネーションランプは、フロント、リア共にブーメラン型と呼ばれるデザインで、クルマ自体のワイド感を強調するものです。鋭くとがったデザインは、スピード感あふれるスポーツカーに相応しいものとなっています。欲を言えば、リアコンビネーションランプはもう少し大胆に伸ばしても良かったのかも知れません。
さらに、初代フェアレディZであるS30型のディテールが随所に見られ、昔からの「Z」ファンにも愛着あるイメージとなっているようです。ルーフのプレスラインやドアエンドからリアに掛けてのラインなどは、初代フェアレディZ(S30型)ファンには「これぞZ!」と言わせんばかりのデザインとなっています。 |
■ドライバーに高揚感を与えるインテリア |
ドアを開け車内に乗り込む祭、そのドアの軽さを感じることとなります。ドアパネルがアルミ製となったことも大きな要因でしょうが、クルマ全体から受ける印象とは少々ギャップがありました。
フロアー自体は高めで乗り降りは楽にできるのですが、シート自体は低くくポジション的にスポーツカーの姿勢を維持することになります。バケットタイプのシートは、上半身を大きくサポートするとともに、太ももの下をサポートする部分が短く、アクセルやブレーキの操作がしやすい、運動性を考慮したものに仕上がっています。
ドライビングポジションでの目線は高く、目の前のダッシュボードは低く感じます。ダッシュボード中央には初代Zから受け継がれる3連メーターがあり、ドライバーの方向に向いてレイアウトされています。歴代、「Z」のメーター類は全てドライバーの方向に向いており、ドライバーの高揚感を高めています。また、フロントガラスから前方に見えるボンネットの膨らみやプレスラインは、そのクルマの力強さを感じ取ることができました。
正面の大型3連メーターは、Z33から受け継がれたステンレスのヘアーライン調のマテリアルに、表示部を立体的に表現したとてもメカニカルなもので、針を使ったオーソドックスな部分でさえデジタルっぽいイメージを受けます。また、エンジン始動時にフルスケール表示されるギミックは、スピードメーター、タコメーターのみならず、三連メーターの電圧計、油温計までもが同じ動きとなります。 |
■ここにも!初代フェアレディーZのイメージが漂う |
センターコンソール周辺の質感やステッチ、3連メーターの上に傘をかぶったようなパーツのデザインは、初代フェアレディZ(S30)のイメージを感じさせるとともに、当時のディテールを今風にアレンジして採用したものの様です。更に、ステアリングにおいても個々のボタン類は新しいデザインなのですが、全体のイメージ、特にセンターのホーンボタンのデザインなどにも、初代フェアレディZ(S30)のイメージが感じられます。
新型フェアレディZ(Z34型)は、エクステリア、インテリア含め初代フェアレディZ(S30)のイメージが多く取り入れているようです。 |
■二面性を持ったパワーユニット |
パワーユニットは、全てのグレード共通でV型6気筒DOHC自然吸気3.7リッターの「VQ37VHR」エンジンを搭載しています。「High Revolution(高回転)」「High Response(高応答性)」のHRエンジンに、「VVEL(バルブ作動角・リフト量連続可変システム)」システムを採用したもの、レスポンスが良く既にスカイラインクーペ(V36)で高い評価を得ている高性能エンジンです。
ブレーキを踏み、スターターボタンを押すとセルが回りエンジンに火が入ります。軽くフケ上がった時の排気音はとても乾いた高い音で、高回転エンジンであることを印象づけています。V6エンジンでありながらV8エンジンのような、しかもそれはアメリカンなズッシリとしたV8ではなく軽快なヨーロピアンなV8エンジンのような印象さえ受けます。
高性能、高回転エンジンであることは周知の通りなのですが、一般道をしばらく流していると、通常走行におけるアクセルワークではマイルドな動きを見せることに気付きます。(ユックリとアクセルを開けていくと、速度100km/h辺りでも回転数は2000回転前後)しかし、少しアクセルを開けエンジン回転数が2800回転を超えた辺りから急にエンジンがワイルドな表情へと変貌します。このクルマを、通常で使う範囲においては荒々しさを抑えたマイルドなフィーリング、常にとんがって走るだけのものではなく、しかしここ一番の時には思いっきり行くぞ!と、けたたましくワイルドなフィーリングへと変化する、二面性を持たせたセッティングのようです。 |
■シンクロレブコントロールを持つ二つのミッション |
今回試乗させていただいたのは、日産に新たに加わった7速のオートマチック、「マニュアルモード付フルレンジ電子制御7速オートマチック」搭載のものでした。パドルシフトのレスポンスも良く、操作から動作までのタイムラグがとても少ないものでした。しかも、シフトダウン時に対応するエンジンのレスポンスも良く、ミッションとエンジンが一帯になったコンビネーションプレーを体感できます。この7速のオートマチックにはシンクロレブコントロールが付いており、シフトダウン時に自動で回転数を上げることでスピードと回転数を自動で合わせてくれます。
新型フェアレディZ(Z34型)では、世界で初めてこのシンクロレブコントロールを6速マニュアル車にも採用しました。ただ、もともとオートマチック車ではマニュアルでエンジン回転数を合わせることができないため、このシンクロレブコントロールはとても画期的なものでしが、そもそもマニュアル車はヒール・アンド・トウでエンジン回転数を任意に合わせることが可能であり、このシステムの採用には賛否両論あったようです。中でも、開発の車両実験部では、「本当にそのシステムが必要なのか?」「小さな親切、大きなお世話」ではないのか?と議論になっと聞きました。
新型フェアレディZのTV-CFに登場する「現代の名工」加藤博義氏も、最初はこのシステムを馬鹿にしていたらしいのですが、実際に乗ってみて「参った!」と頭を下げた・・・と言う話も聞きました。この真相は定かではありませんが、一説によるとシンクロレブコントロールが行う動作は、加藤氏が行うヒール・アンド・トウよりも早いのでは?との話も・・・ただ、この事は日産実験部内では禁句になっているようです。
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■最終決定した人の勇気を感じる足まわり |
今回試乗させていただいた新型フェアレディZ(Z34型)のタイヤは、フロントが245-40/19インチ、リアが275-35/19インチとかなり太めのチョイスとなっていました。一昔前では考えられないようなサイズのタイヤをこの新型フェアレディZは標準装備しています。乗り心地はスポーツカーらしいと言うか、あえてスポーツカーを強調したと思えるスパルタンな足まわりにセッティングされており、整備された道路ではとても気持ちよく、小さな段差も気持ちよく吸収するのですが、やはり大きなギャップを乗り越えるとそれ相当の突き上げ感は免れません。また、ホイールベースが短くなったことにより、ステアリングのクイックな感じは強調される反面、前後方向のピッチングが気になる場面もありました。ただ、乗り始めのイメージではロングドライブはきついかな?とも思われましたが、こういうものは案外身体がすぐに慣れてくるもので、決して優雅に長距離を移動する・・・と言ったラグジュアリーさはないものの、スポーツカーというハードな面を、運転の楽しさというソフト面で十二分に補っており、ロングドライブを充分満喫できると確信しました。
ホイールベースが短くなったことで間違いなくコーナリング性能は向上していると思いながらも、そのことで逆に直進安定性が犠牲になっているのでは?と懸念していましたが、その不安も単なる思い過ごしに終わっています。
とは言うものの、その足まわりは相当ハードなもので、荒れた道を喋りながら運転していると間違いなく舌を噛むことでしょう。素人の私でも、サーキット走行したくなるパワーであり、足まわりとなっています。私は、この足まわりのセッティングを最終決定した人の勇気を感じます。 |
■曙製ブレーキシステム |
ブレーキローターは大きく、見た目にも効きそうなブレーキとなっています。今回、新型フェアレディZ(Z34型)にはブレンボ製ブレーキの設定がなく、全て曙製となっているのですが、その効き味は極めてスムーズで、非常にガッツリとした効き味を見せてくれます。 |
■高いトータルバランス |
今回試乗をさせていただき、基本の性能が高いクルマだと感じています。ハンドルのクイックさがとても小気味良く、エンジンパワーとのマッチングも良い、気持ち良く運転ができるクルマでした。運転が楽しい!その言葉がピッタリのクルマに仕上がっています。
普段の試乗であれば、試乗中に写真を撮る場所を探しながらドライブしているのですが、今回はそれよりも走っている方が楽しく、写真を撮ることを忘れてしまいそうなくらいでした。 |
■このクルマの方向性・・・ |
雑誌などでは、この新型フェアレディZ(Z34型)のライバルはケイマンでは?と書かれていますが、日産自動車はZ34のライバルは唯一先代のZ33と言っています。先代のZ33のライバルがポルシェであった事から、結局は・・・とも思うのですが、私自身はBMWのZ4的な方向性を感じるのです。とは言え、ポルシェもZ4も乗ったことがない私が言うのですからかなりいい加減な意見であり、何となくそんな感じがするという程度です。
ただ、その方向性が合っているか間違っているかは別として、新型フェアレディZ(Z34型)で私が感じたのはライトウェイトスポーツへの方向性であり、もしそうであれば車格もエンジンももう少し小さくても良いのでは?と思いました。しかし、フェアレディZのメインマーケットが北米であることを考えると、ライトウェイトスポーツの操作性とビッグパワーのバランスを考慮したその結果が、排気量「+200cc」、ホイールベース「-100mm」、車重「-100kg」だったのではないかと推測するのです。 |
■先代からの進化 |
先代のZ33型フェアレディZは、日産復活のシンボルとしてトータル的にまとまり、「多くの人が楽しむことができるスポーツカー」であったように思えます。それに対し、この新型フェアレディZ(Z34型)はかなりスパルタンなものへと進化したようです。ただ、先代のZ33型フェアレディZは発売から毎年イヤーモデルと称して常に進化を遂げており、その最終モデル辺りでは初期型に比べかなりスパルタンなものになってたのも事実です。
最初はその外観から、Z33のキープコンセプトであろうと思っていましたが、日産自動車(株)チーフ・プロダクト・スペシャリストの湯川伸次郎氏は「Z33でやることはやり尽くした」・・・とし、新たな進化という新型フェアレディZ(Z34型)を発表しました。実際に試乗を終え、私自身もZ33とは全く違うコンセプトではないか?と思わせるほど進化していると感じています。 |
■「スポーツ、それは楽しむこと」 |
試乗では同時に写真撮影を行うのですが、このクルマは停まっている姿よりも動いているときの姿の方が絵になる様です。クルマを停めて写真を撮っていても、動いている時にみせる表情をレンズに納めることができませんでした。
ドライバーも走って楽しい、クルマ自体も動いている姿が一番カッコイイ、スポーツカーの原点のようなクルマなのかも知れません。
「スポーツ、それは楽しむこと。」とは、「Zの父」Mr.Kこと片山豊さんの言葉。片山さんのサインには常に「快走」の文字がベースにあり、新型フェアレディZ(Z34型)にはこの思想が確実に反映されていると思います。 |
■Zに乗るという覚悟 |
この新型フェアレディZ(Z34型)は、決して楽に運転できるラグジュアリーカーではありません。しかし、運転することの楽しみを感じることができるスポーツカーであることは間違いありません。また、所有する喜びでとは別に、ドライビングする喜びが高いクルマなのです。
新型フェアレディZ(Z34型)は万人に受け入れられるクルマではないと思いますが、このクルマにはまる人は無茶苦茶はまることでしょう。また、このクルマに乗る前に、決して一般大衆車ではないと言うことを理解する必要があるようです。さらに、乗る側が他車との差別化を必然的に持ってしまうようなフィーリング、この感覚は流石!「Z」だなと思わずにはいられません。
乗る側にある意味の「覚悟」を必要とさせる・・・、そのクルマが「Z」であるが故の・・・。
全ての意味においてこの新型フェアレディZ(Z34型)は、「Z」としての私の評価は高いものとなりましたが、クルマが乗り手を選んでしまうため、誰にでも気軽に薦められるクルマではないと思っています。
ただ、そこがまた「Z」らしい魅力の一つだと私は思っています。 |